金融市場と現場での現実とのかい離

Apr 28, 2026

中東は膠着状態にあるにも拘らず、市場は安定的に推移しています。

コメント要約
  • グローバルサプライチェーンにおける緊張:ホルムズ海峡が引き続き閉鎖されている中、その影響は米国外で顕在化し始めています。
  • 市場との乖離:ワシントンDCで実施した政策担当者とのミーティングで明らかになったのは、我々が耳にすることと、金融市場に織り込まれてとみられる内容との間に大きな乖離があることです。
  • 成長:欧州や多くのアジア諸国におけるリセッションの可能性が上昇し続けています。
  • 欧州中央銀行(ECB)の金利政策:差し迫った成長ショックがある場合でも、ECBは6月と9月に利上げをする必要があるとみており、イングランド銀行もその流れにしぶしぶ従わなければならなくなる可能性があります。
  • 英政治と英国債:スターマー首相が5月に失脚する可能性は高く、最も可能性が高い後任のアジェンダは債券市場の制約に直面し、市場の更なる混乱の要因となり得ます。

過去1週間、金融市場では比較的安定した値動きが続きました。中東では膠着状態が続いているにもかかわらず、米国株は過去最高値圏を維持しています。

ホルムズ海峡がほとんど閉鎖されたままであることで、世界的にサプライチェーンにおける緊張が高まり、その影響は米国外で顕在化し始めています。航空会社がフライトを削減し、供給不足により一部の国で生産が縮小しています。

先週ワシントンDCで実施した政策担当者とのミーティングで印象的だったのは、我々が耳にすることと、金融市場に織り込まれてとみられる内容との間にある大きな乖離です。

米国の経済見通しは堅調ですが、米国外の地域では状況は異なります。したがって、米S&P500 種指数の相対的な力強さは、他地域のリスク資産上昇の根拠になるべきではないと考えています。これを踏まえ、ここ最近の欧州株式や社債の上昇の妥当性には疑問を感じざるを得ず、アジアの多くの市場でも同様のことが言えます。アジア諸国の経済も同様に下方リスクに晒されているとみているためです。

米国はこの先、コモディティ価格の上昇に伴うインフレショックを経験することになるでしょうが、他の地域で差し迫る物理的な供給不足に対しては、はるかに耐性が高いと言えるでしょう。したがって、紛争がもたらす米国経済の成長への影響は限定的であると考えており、減税や規制緩和、人工知能(AI)投資ブームからの追い風が、今後も米国の総需要を支え続けると予想しています。しかし、欧州や多くのアジア諸国に迫る成長ショックは、ペルシャ湾の海運がほぼ停止している中、週を追うごとに悪化の一途を辿っています。

紛争そのものに関しては、複数の政策担当者とのミーティングで、軍事的緊張が再燃する可能性は極めて低いという現在の市場の想定は、誤りである可能性があることが示唆されました。交渉により突破口を見出せる可能性があるものの、当社では長期的な膠着状態を基本シナリオとしています。しかし、ワシントンDCのタカ派寄りのグループは、米国が「仕事を終わらせる」ことが出来なければ、シャヘッド・ドローンがジェット・エンジンを搭載するまでにそう長い時間はかからず、安全保障上のさらに深刻な脅威になる可能性を指摘しています。このグループは、通称「壮絶な怒り(エピック・フューリー)作戦」開始時の重大な誤りは(ロシアがウクライナを当初攻撃した時とある程度同様に)、軍事的攻撃の規模が限定的過ぎたことであると指摘しています。

急いで行動を起こそうとする中、米国は最適な進め方について事前に準備した計画から逸脱していったようです。これらの計画では、イランが明らかな要衝(ホルムズ海峡)の混乱によって戦略的圧力を行使するのを防ぐため、カーグ島と沿岸部は初期攻撃直後に、同時に侵攻すべきであったとしています。

ただしタカ派は、より多くの米国軍事勢力が中東に配備された今、この誤りは依然として修正可能であると主張しています。そのような観点で見れば、米国は数週間前よりも、より広範な攻撃を実行出来る、より強固な立ち位置にあると言えるでしょう。これらのタカ派グループはまた、UAEがウクライナからの支援を受けてドローン脅威の管理においてより多くの専門知識を獲得することで、イランが地域全体で決定的な打撃を与える能力は減少する可能性があると楽観視しているようです。

トランプ氏は紛争の迅速な終結を望んでいるように見受けられますが、イスラム革命防衛隊(IRGC)の強硬派は、米政権が域内から撤退する準備をするまで、米政権が実現を求めた要求に同意する意思はほとんどないと見られることを鑑みれば、米国が軍事的なエスカレーションによって終結させようとする可能性があるでしょう。

米国内では、戦争自体はそれほど支持されていないものの、現在のところ、有権者の主な懸念はガソリンスタンドで給油する際のガソリン価格の上昇であるように見えます。民主党支持者の間でさえ、イランは長年に亘り悪質な行為を繰り返してきたため、彼ら自身にも原因があるという感覚があります。また、中間選挙が控える中、政治アナリストは有権者の記憶が短いことも指摘しており、その文脈において、中間選挙で真に重要となるのは今の状況ではなく、10月に何が起こるかであると指摘しています。

中間選挙そのものについては、民主党が下院を奪取することがほぼ確実視されています。上院での勝利はずっと可能性が低いように見えますが、民主党が2028年末に行われる選挙で圧勝する可能性があるという見方が日増しに強まっています。

これを念頭に置くと、トランプ氏は、2027年中に大統領令を通じて統治しようとし、大統領の特権を前例のない方法で試そうと(および濫用しようと)するため、裁判所との頻繁な衝突が発生しそうです。したがって、今後2年間は、米議会の役割は期待されるほどのものではなくなり、実際に、ロビー活動会社の予算は米議会から、ホワイトハウスシフトしています。

一方で、民主党は大統領に対する弾劾手続きを開始しようとするかも知れませんが、上院で必要な67票を得るための実現可能な道筋が描けないことから、それほど材料視されていません。

先週実施されたウォーシュ次期FRB議長の上院での公聴会には、ほとんど目新しいことはありませんでした。以前述べたように、ウォーシュ氏はFRBのバランスシート縮小を望んでいますが、同氏がそれを実行出来る状況にあるかどうかは、それほど明確ではありません。結果として、金利政策の緩和を通じて相殺することを示唆する可能性があります。広範に言えば、市場は新たなFRB議長が金利に対してハト派であることを予想していますが、おそらく、金融政策は2026年全体を通じて据え置かれるでしょう。インフレが利下げを正当化しない一方で、成長が冷える中、金融引き締めへの障壁も予想されることから、FRBが目立った動きを取ることが難しくなる可能性があるためです。

年内はFRBによる政策金利の変更は予想されておらず、先物市場にもほとんど織り込まれていないことから、米国債は現在の水準近辺でレンジ取引になるとみています。米国経済に関しては、インフレが4%に上昇する中でGDPが2%で拡大すれば、6%の名目成長となり、バランスシート上のレバレッジを踏まえれば、企業の名目上の利益も健全に推移するとみています。

リテール投資家が依然として押し目買いを続け、魅力的な投資リターンを得ようと自身のバランスシート上でレバレッジを掛けていることが、今のところは米国株を支え続けています。しかし、ワシントンDCの政策担当者の間では、短期的に価格が上昇すればするほど、結果的に反落する幅も大きくなることに対する警戒が広がっているようです。

しかし、米国以外に目を向けると、その状況はより険しいように見受けられます。ユーロ圏では、仮に和平協定の結果としてホルムズ海峡が迅速に再開されたとしても、インフレ率が3%を上回り、成長は0.5%未満に減速すると予想しています。また、ホルムズ海峡を通じた輸送の停止状態が続けば、1週間毎に、このGDP予想から0.1%を差し引き、インフレ予想には0.1%を追加していく必要もあるだろうと考えています。

コモディティのトレーダーは非常に明確なアラームを鳴らしており、このような状況は、2020年1月から2月の新型コロナウイルスの脅威の着実な進行を想起させます。当時も、何が起こるかは予想できましたが、西側諸国でそれが実際に確認されたときに初めて、より大幅な市場イベントに発展しました。

同様に、先週は戦争前に湾を出発した最後のタンカーが、アジアの目的地に到達しているという報道がありました。この先、供給不足はさらに悪化する一方となり、供給と需要の均衡を戻すためには、需要の大幅な低下が不可避となることに注視すべきでしょう。

これにより、欧州や多くのアジア諸国におけるリセッションの可能性は上昇し続けています。例えば、ドイツの生産者物価指数(PPI)における前月比2.5%の上昇や、3月の英国の食品価格が前年同月比7.3%増となったことは、今後発生する可能性のあるインフレの痛みの前兆と言えそうです。

その結果、差し迫った成長ショックがある場合でも、欧州中央銀行(ECB)は6月と9月に利上げをする必要があるとみており、イングランド銀行(英中央銀行、BoE)もその流れにしぶしぶ従わなければならなくなる可能性があります。これを踏まえ、ポートフォリオではインフレ連動債のポジションを、ブレークイーブンとアウトライトの実質金利という両方の観点から積み増しています。日本でも金融引き締めは予想されるものの、日銀は4月の利下げは見送り、6月の会合での25bpsの利上げ可能性を示唆するとみています。

英国では、日増しに積もる経済面での課題に加え、政治的ボラティリティも高まっており、スターマー首相が5月の英地方選の後に失脚する可能性は極めて高いようです。同氏の後任として最も可能性が高いのはアンジェラ・レイナー氏で、同氏には、より左派的な労働党のアジェンダに対する債券市場の懸念を軽減するという仕事が待ち受けています。多くの点から、英国債市場はレイナー氏に政策運営のための余地をほとんど与えないかも知れず、労働党の支持層における不満を招く可能性があります。このことは、市場の更なる混乱の要因となり得ますが、利回りは既に上昇しており、このシナリオに備えたポジションとして最良の方法は英ポンドのショート・ポジションを維持することであると考えています。

他の為替市場では、エマージング市場(EM)の原油関連通貨のロングに対して、エネルギー輸入国のショートを選好していますが、米ドルに対するユーロのポジションについては強い見方を持っていません。日本円は1米ドル160円近辺で構造的に割安とみて、小幅なロング・ポジションを維持しており、日銀会合が終了したのちに積み増すことを検討しています。160円を突破した円安の進展は、介入の可能性を高めるとみているためです。

ホルムズ海峡が再開され、米国とイランの紛争が解決されるまで、これに関連した日々の報道が今のところは市場の話題を独占するでしょう。これまで、米国株市場が、いかに数千マイル離れた場所でのイベントに鈍感でいられるかを目の当たりにしてきました。しかし、米国以外の地域でのダイナミクスの変化は、日常生活において影響を受けやすい欧州とアジアに住んでいる人々にとって、より現実的で目に見えるものとなるでしょう。実際、この速さでは、我々の夏休みの計画さえ中止の危機に晒されるかもしれません。

これは、投資家がサプライチェーンの正常化という変化の向こう側を見据えることが出来るまで、リスク資産の相関関係の崩壊と、ポートフォリオの再構築を示唆するものとなるでしょう。しかし、著名なアナリストが、中東での戦争やカタールのインフラの損害による供給不足の結果として、LNG価格が低下するまでには何年も要するであろうとの見方を示す中、サプライチェーンの問題は続く可能性があるでしょう。

もう一つの例としては、自動車のホイール・キャップの供給が挙げられます。この市場は主にUAEの生産に依存していましたが、アブダビのアルミニウム製錬所が停電に見舞われ、溶融金属が炉内で固化してしまったため、設備の交換が必要となり、操業再開には12ヶ月を要する見込みです。グローバルなサプライチェーンが混乱に対して脆弱であることを示すこうした小さな事例は、枚挙にいとまがありません。  

今後の見通し

多くの側面から、現在の紛争による教訓として明らかであるのは、この先、それぞれの国が自給率高める必要があるということです。安全保障はもちろん、エネルギーや食料生産においても、他の国に頼る必要がなく、ある程度自給でまかなえる状態であることが重要となります。この教訓が新型コロナで得られず、そしてロシアとウクライナの戦争開始後もまだ得られていなかったとしても、わずか5年超で3つ目となる大規模なマクロ・サプライチェーンショックを経て、この教訓が今回も得られないということは許されがたいでしょう。

政治や地政学はより脆弱になっており、この点において、政策担当者にとって明らかに重要なポイントは、危機の最中には、とにかく他を頼ることができないということでしょう。

今のところ、ポートフォリオでは慎重な投資姿勢を維持します。市場参加者の思考と、政策担当者の間で我々が耳にすることとの間に、これほど大きな乖離があることは滅多になく、そのような場合には注意を払う必要があることを経験上学んで来ました。

もちろん、現在の危機が過ぎ去ってくれることを望んでいます。これに関連して言えば、ホルムズ海峡がほぼ閉鎖されて以降、チェルシーがプレミアリーグで1つのゴールすら挙げられていないことは、ファンとして憂うべく事態であり、すぐに軌道修正が必要です。さもなくば、来シーズンには(降格危機にある)スパーズのような状況に陥ってしまうかもしれません。

 

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