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米財務省が超長期国債の購入を大幅に拡大する意向を表明したことで、先週は米国債のイールドカーブがフラット化しました。この発表タイミングは異例で、米国の超長期国債利回りが先週初めに20年ぶりの高水準を記録したことで、更なる上昇を抑制することを目的としていたように見受けられます。
この点で、スコット・ベッセント米財務長官は常に、自身の任期中に長期借入コストが大幅に低下し、それに伴って住宅ローンの負担軽減を通じて米国の住宅市場を支援すると主張してきました。しかし、過去1年間のトレンドは逆方向に進んでいることで、財務長官はますます苛立ちを募らせているようです。
実際、トランプ米大統領の支持率が過去最低となっている時期に、借入コストの好ましくない動きを「何とかしろ」と財務長官の耳元で上司が叫んでいる姿を想像することは難しくありません。
この状況において、短期債務で資金調達しながら長期債を買い戻す動きは、中央銀行が量的緩和(QE)政策の下で実現しようとするものと似た効果があると見ることができます。
しかし、今回の買い戻しオペレーションの規模は、過去の米連邦準備制度理事会(FRB)のQEプログラムと比較すると極めて小規模です。この点で、今回の取り組みは米政権によるシグナル効果としての意味合いが強いと言えます。米国の財政赤字が依然として極めて高水準にある中、財政再建への意欲は全く感じられません。
しかし、政権は借入コストが急上昇しないようにするためには何でもするつもりのようです。その意図は、最近の米財務省による円相場支援のための為替介入の背景でもありました。しかしベッセント氏は、ファンダメンタルズに裏付けられていなければ、介入は良く見てもせいぜい時間稼ぎにしかならないことを認識すべきでしょう。
いずれにせよ、今回の出来事は、過去にジャネット・イエレン氏の下でこのような介入主義的な方法で、財務省がFRBのバランスシートを使用しようとしたことに対して、ウォーシュFRB議長が嫌悪感を示していたことを踏まえれば、現時点でベッセント氏とトランプ氏がケビン・ウォーシュ氏に何を伝えているのであろうかという疑問を投げかけるものです。
確かに、ベッセント氏の行動は、ウォーシュ氏をやや困難な立場に置いているように思われます。先週公表された米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録では、かなりの数の参加者が今後数カ月で金利を引き上げるべきだと考えていることが強調されました。
しかし、7月の会合以降、経済指標にやや軟化が見られることから、8月の雇用統計と消費者物価指数(CPI)が上振れサプライズとならない限り、FOMCが9月に利上げを実施することは困難に思えるかもしれません。実際、足元では短期金利先物市場でも9月の利上げ確率を約30%程度と織り込んでいます。
とは言いながらも、議論の中心は、より制約的な金融政策スタンスを取るべきかといったものになることは依然として明確ですが、財務省の買い戻しオペレーションは全く逆の方向を指しているように見えます。実際、利回りがさらに持続的に上昇した場合、米政権は、超緩和的な金融政策スタンスの一環として日銀が長年に亘って実施していたイールドカーブ・コントロールのような形態を求めるのではないかと、疑問に思い始めてしまう人もいるかも知れません。
もちろん、このような方法で利回りに上限を設けようとすることの問題は、インフレにさらなる上昇圧力を与えることであり、この点で財務省の最近の行動を受けて米ドルが広範に下落し、金価格が急上昇しているのは興味深い動きと捉えています。
当社ではこのような背景を踏まえ、引き続き米インフレ連動債とスワップのアウトパフォーマンスを予想していますが、この領域における過去数日間の値動きは非常に限定的なものとなっています。この点に関して言えば、インフレ連動債市場はウォーシュ氏がインフレと期待インフレを引き下げるのに十分なタカ派姿勢を取ると確信しているように見受けられますが、名目金利市場では25bpsの利上げが完全に織り込まれているのは来年の1月と先になっています。
ここから読み取れるのは、市場参加者がインフレ指標に関しては比較的穏やかな水準に留まると確信しているように見えるということですが、当社ではこれは楽観的過ぎるように思います。とりわけ中東の紛争が未解決であり、石油精製品価格が4-6月期の高値近辺に戻っていることを考えれば、尚更です。
その中東では、和平合意への期待が低下し続けており、ホルムズ海峡を通じた貿易の流れが戦争開始前の水準のごく一部に留まる中、長期に亘ってグレーゾーンの状態が続くように思われます。
当面は膠着状態にあるものの、双方の隔たりが依然として大きいことを踏まえれば、将来のいずれかの時点で紛争の再燃は避けられないという認識が支配的なようです。
一方、トランプ氏が米国の同盟国であるオマーンを爆撃すると半ば脅す中、予測不可能なホワイトハウスは世界中で引き続き懸念の種となっており、最近では米国が朝鮮半島における米軍駐留の削減を発表したことを受けて、韓国もワシントンDCからの冷たい風を感じています。
その他では、市場の注目は引き続き人工知能(AI)に関連したセクター間の変動や、激しい値動きに集まっています。中でも、半導体メーカーは引き続き市場のボラティリティ要因となっており、その一例として、韓国企業SKハイニックスの株価は8月18日まで一週間で約30%上昇していましたが、その後2日間で17%反落し、またその後の24時間で10%超反発しました。
このようなバリュエーションの大幅な変動は、レバレッジをかけた個人投資家が両方向の値動きを追いかけることで悪化しており、一部の市場はほぼ投資不可能な状態となっています。それでも、疑いの余地がないのは、AIというトレンドが継続しており、減速の兆しを見せていないということです。ハイパースケーラーはグローバル市場で引き続き速いペースで起債しており、今週はオーストラリアに注目が集まりました。米アルファベット社が50億豪ドルの複数トランシェの新規発行計画を発表したためです。
過去1年間のAI関連の新規発行に関して注目すべき特徴の一つは、これらの発行が長期債に大きく偏っていることであり、2026年の発行額のうち40%以上が、金利デュレーションベースで20年超の債券となっています。これは吸収すべき相当な量の長期債が発行されているということに他なりません。
たとえ米財務省がイールドカーブの長期ゾーンでの発行を避け、政府債務残高の増加を短期債で賄おうとしているとしても、米国の債券市場は発行量の多さに消化不良で苦しんでいるように思います。経済学の教科書では、債務の過剰供給は需要を奪い合うことで、最終的には信用力の弱い借り手がクラウディング・アウト(押し出し)される現象につながると書くでしょう。
現時点では需要がまだ満たされてはいないものの、2026年においては、発行増が社債スプレッドに拡大圧力をかけるのではなく、イールドカーブ全体に圧力となっているというのは興味深い点です。
また、英国においては、構造的に脆弱な英国住宅市場を背景に、英国債利回りの上昇が住宅ローン借入コストの押し上げにもつながっています。英不動産ポータルサイトのライトムーブ・ロンドンにおける不動産価格は過去1カ月で4%下落しており、多くの調査は、特に販売中の高額物件に関して、首都圏の住宅価格がピーク時の評価額から30%下回る水準に現在あることを示しています。
英国への移民流入は続いているにもかかわらず、官僚主義や建設コストの上昇が足かせとなって住宅建設は停滞しており、住宅市場の先行き見通しは明るいとはほとんど言えません。
高額物件に対する「豪邸税(mansion taxes)」への懸念もロンドンの住宅価格に影を落としており、一方で賃借人に有利となる形で家主の権利が低下していることで、多くの賃貸物件が売りに出される例も見られています。
したがって、英国住宅市場の動向は、イングランド銀行(英中央銀行、BoE)がさらなる金融環境の引き締めに異を唱える要因であり、総合インフレ率が再加速している場合でも、BoEは政策金利を据え置くべきであることを示唆している可能性があります。
この観点から、原油・ガス価格上昇に起因するエネルギー価格インフレのコントロールにおいてBoEが出来ることはほとんどなく、BoEが物価安定を揺るがす可能性のある二次的な影響に焦点を当てている理由を説明しています。
当社では英国のCPIが10-12月期に4%を超えると予想していますが、今月のCPIや労働指標が示したように、基調的なインフレ動向がより弱いことを踏まえれば、BoEによる利上げは今後1年間で1回のみになると予想しています。
英国がバーナム政権下での賢明なる政府方針の転換により、新規の国内の石油・ガス開発プロジェクトの進行を認めることになったことは、中期的には英国の中東へのエネルギー依存を減らすことに役立つ可能性がありますが、現時点では安心材料にはほとんどなりません。短期的にプラスの影響となり得るのは、政府が発電価格設定の計算式に対処することです。この計算式は、英国は最も高コストの発電方法の価格ですべての電力価格が決まる仕組みと実質的になっています。
これを調整すれば電気料金が下がり、生活費の危機を改善するとともにインフレ率も低下し、BoEにいくらかの安堵をもたらすでしょう。政府がこの明白な異常事態を特定し、真の変化をもたらす変更を行うことが期待されます。政策がこのような方向に動けば、英イールドカーブの短期ゾーンについては投資妙味があるとみていますが、より広範な財政関連の懸念から、英国の超長期債については引き続き極めて慎重な姿勢を維持しています。
欧州のその他の市場は、夏場で静かな状態が続いています。日本では、超長期債利回りが米国の超長期債に連動する形で低下しており、日本政府も同様に、長期借入コストの急上昇を防ぐための計画に取り組んでいると推察されます。
これは超長期国債の発行削減や、最近では個人投資家が日本国債に投資する際の税制優遇措置拡大を目的とした議論などにも見られています。当社では4%の利回り水準にある日本の30年国債に引き続き投資妙味があると見ており、市場はこの水準近辺で安定すると予想しています。
先週発表された日本のCPIは前月比で上昇しましたが、物価上昇率は前年比で2%を下回っており、今後数カ月で上昇トレンドが見られたとしても、日本では期待インフレが他国よりもはるかにしっかりと安定していることは明らかです。
為替市場では、米財務省の買い戻し計画を受けて米ドルが下落しました。また、トランプ氏による相次ぐ予測不可能な発言が、韓国やオマーンのような国々の外貨準備管理者に、外貨準備を米ドルから分散させることを検討させる可能性があったとしても当然だと思います。
過去数週間では中央銀行の購入によって金価格が押し上げられており、成長における米国例外主義やAIにおけるリーダーシップにも拘わらず、米ドルの武器化はその魅力を損ない続けています。その他では、米国との貿易協定の進展によりカナダドルが堅調でしたが、広範に言えば為替ボラティリティはしばらく比較的抑制された状態が続いています。
投資行動に関しては、ここ1カ月での弱含みを踏まえ、過去数日間でハンガリー・フォリントへのエクスポージャーを追加しました。当社では引き続き魅力的な長期的EUコンバージェンス(収束)取引とみてハンガリーを選好しています。
同じ文脈において、8月29日に予定されているアイスランドのEU加盟交渉再開を問う国民投票にも注目しています。賛成派がわずかに過半数となり世論調査をリードしている中、EU加盟交渉を再開するという結果は、アイスランド国債と通貨への関心を高める可能性があるでしょう。特に、アイスランドの短期金利が8%で、同国の外貨準備が極めて堅固な状態にあることを考えれば、尚更です。
最終的にEUに加盟するためにはさらなる国民投票が必要となりますが、アイスランド国民を説得できれば、EUの他の国々は両手を広げて彼らを受け入れることは明らかであるように見受けられます。
アイスランドに関して言えば、グリーンランドに対するトランプ氏の介入が、より親欧州的な意見形成やアイデンティティ推進に役立ったことを振り返ることも興味深いでしょう。世界各地で極めて不確実で不安定な時代となっている中、多くの人々が将来に対して恐怖を感じていることは注目に値します。
ディストピア的なAIの未来への恐怖が不安を増幅させる中、これが生み出している行動を目の当たりにすることも興味深いです。例えば、超富裕層が離島を購入し、巨大な地下シェルターを建設するようなトレンドは、決して安心出来るものではありません。興味深いのは、こうしたリスク回避の動きと、金融市場の高い株価のバリュエーションが対照的だということです。市場は依然として、テック企業のCEOたちが語る薔薇色の未来像を信じ込んでいるかのようです。
ビジョナリー(未来を描くテック企業のリーダー)たちが、病気から解放され、豊かさに満ちた時代において、無限の可能性に満ちた未来の夢を売りたいと思うことは理解できます。しかし、この売り込みを額面通りには受け取らないことが賢明であることを、我々は皆知っておくべきです。
同様に、ベッセント氏とトランプ氏が、イランに対する完全勝利や中東における明るい未来という考えを売り込みたいのと同じように、今後数年間の力強い米国経済成長や低インフレ、低金利、低財政赤字の見通しを売り込みたいと思うことは理解できます。
しかし、このような主張も単なる売り込みとして受け取り、有権者がこれらの大げさな主張にますます疲れ、冷笑的になっているように見える時期に、米政権の望むものに金融市場が協力しない場合、何が起こるかは興味深く見守る必要があるでしょう。
その場合、政策ミスのリスクは大幅に高まる可能性があり、中東紛争で経験してきたように、極めて慎重に行動しなければ、お粗末に実行された計画は悪い状況をはるかに悪化させるリスクを冒す可能性があります。もしかすると、夏が終わりに近づくにつれて、ボラティリティが高まる可能性があることを示唆しているのかもしれません……
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