政治懸念が表面化、経済見通しは改善

Sep 29, 2025

興味深い一年は静かに幕を閉じるのでしょうか?

コメント要約

  • 先週は、堅調な経済指標を受けて米国債利回りが上昇した一方、欧州では、目立った新たな材料が不足している中、国債利回りが横ばいの動きとなりました。
  •  政府機関閉鎖が長引けば、経済に若干の下振れリスクをもたらす可能性がありますが、マクロ経済見通しに大きな影響を与えるとは考えていません。
  • 英国では、直近の報告によると、政府財政に約300億英ポンドの不足が生じる可能性が高いと見られ、この不足を補うために小規模な増税が行われると見られます。
  • 日本では、自民党総裁選挙が間もなく実施される予定です。世論調査によれば、小泉氏が勝利する可能性が高く、同氏の政策的な枠組みに基づけば、円の上昇と日本国債利回りの低下が期待されます。
  • 社債市場は引き続き需要に支えられ、堅調に推移しています。国債の発行が過剰となっていることも影響しています。

先週の金融市場では、堅調な経済指標を受けて米国債利回りが上昇しました。4-6月期のGDP成長率は、個人消費の堅調さを背景に、前期比年率3.8%に上方修正されましたが、1-3月期の同成長率が-0.6%と極めて低調であったことを考慮すると、年初来の成長率はトレンドを下回る水準に留まっています。一方で、新規失業保険申請件数の減少は、労働市場が引き続き悪化しているとの懸念を和らげました。また、耐久財受注の堅調な伸びは、投資支出の強さを示しています。

しかしながら、今週以降発表される米国の労働市場関連の経済指標が、米金融政策の軌道を見極める上でより重要になると考えています。非農業部門雇用者数が市場コンセンサス予想の5万人程度となる場合、パウエルFRB議長が年末までに25bpsの利下げを1回実施するか、もしくは2回実施するかどうか、市場参加者が見極めようとする状況が続く可能性があります。

しかし、上にも下にも大きく予想外の結果が出ることは、あり得ると考えています。特に、失業者数が大きく悪化した場合、米労働市場への懸念が強まり、この指標の更なる悪化トレンドを抑制するために50bpsの利下げを求める声が高まる可能性があります。また、次回の消費者物価指数(CPI)の発表にも注目が集まっており、政策判断において重要な要素になるとみられます。

当社の分析を踏まえると、米労働市場の深刻な悪化について、現時点で大きな懸念は抱いていません。移民の減少により米国の労働力の成長が鈍化しているため、雇用者数が7万人程度であれば失業率は概ね安定した水準に留まると考えています。

また、2025年に比べ、2026年は、利下げや減税、規制緩和の影響で米国経済が改善に向かうと予想しています。とは言いながらも、人工知能(AI)が一部の労働者に取って代わる動きが見られており、とりわけ「Mag7」(米ハイテク大手7社)の雇用は、その利益が急成長しているにも拘わらず、過去12か月で減少しています。

このようなトレンドは注視する必要があるとみています。このような点を踏まえれば、米国が専門技能を持つ外国人労働者に向けた入国査証(ビザ)の申請費用を大幅に引き上げた動きは、国内のテクノロジー分野の雇用見通しの改善に加え、こうした労働者を多く供給してきたインド政府に対する牽制という2つのメリットがあるとも言えそうです。

また、今週にも米国政府機関が閉鎖に陥る可能性も高まっています。下院で合意された11月21日までのつなぎ予算案を上院民主党が支持していないためです。

ホワイトハウス(米政権)は、政府機関閉鎖が起きた場合、政策遂行に重要でないとみなされる連邦職員の大幅な解雇を実施すると警告しています。民主党は政府機関閉鎖が起きた場合、自らに責任が及ぶ可能性を懸念しているため、土壇場で妥協が成立する余地があるかもしれません。

しかし現時点では、上院民主党トップのチャック・シューマー院内総務は強硬姿勢を崩しておらず、トランプ米大統領の非合法的な振る舞いを指摘し、同氏がいずれにせよこうした分野の職員削減を進める意向であるとの見方を示しています。政府機関閉鎖が長引けば、経済に若干の下振れリスクをもたらす可能性がありますが、マクロ経済見通しに大きな影響を与えるとは考えていません。その意味では、むしろ、経済指標の発表が大幅に遅れる可能性の方が、投資家にとっての懸念材料であると言えるでしょう。

米国におけるその他の動きとして、スティーブン・ミラン氏がFOMCのドット・チャートにおいて、他の参加者よりもずっと低い政策金利見通しを示した背景を説明した点は注目に値します。このような透明性は歓迎されるべきですが、非常に低い水準の中立金利を想定している前提となっているインフレに関する想定については、疑問を呈する声もあります。

ただし、中立の政策金利の評価は常に議論の余地があるものです。より重要なのは、ミラン氏の見解がホワイトハウス内の経済的な思考を明確に示している点でしょう。これらはトランプ氏が支持する見解であり、次期FRB議長の選任においても、同氏の考え方を受け入れる人物が選ばれる可能性が高いことは容易に想像が出来ます。

次期議長の人選については依然として不透明ですが、クリストファー・ウォラー氏が9月の会合で、パウエル氏同様に25bpsの利下げを主張したことは、候補者としての同氏の可能性を制限するものかも知れません。その点で、ミラン氏が自ら他の理事とは異なる行動を見せた独自性は、トランプ氏への訴求力を高めているかも知れません。

最終的には、FRBをよりハト派的な方向へと導く候補者が選ばれると予想しています。そのような動きは米国債のイールドカーブのスティープ化につながり、米ドルも幾らか弱含む可能性がありますが、いずれの展開も米国経済にとって大きな問題とはならないでしょう。

実際、低金利は停滞している住宅市場を刺激し、変動金利型住宅ローン(ARM)を選択する新規の借り手を引き付ける可能性があります。また、イールドカーブのスティープ化は、マネーマーケット・ファンドから米国債市場への資金移動を促す可能性があり、海外需要が減少している中で有益となるでしょう。一方、米ドル安は経常収支の不均衡を是正する助けとなり、これはトランプ政権の政策目標の一つでもあります。

欧州では、ここ最近目立った新たな材料が不足している中、国債利回りが横ばいの動きを続けています。フランス10年国債のドイツ国債に対するスプレッドは引き続き80bps近辺で推移しており、ルコルニュ新首相が予算案における妥協に苦慮している状況が反映されています。一方で、イタリアの財政赤字が今年3%を下回る見通しであることは、フランスとイタリアという2つの国が異なる方向に向かっていることを示しています。

その他では、ロシアによる無人機や軍用機の欧州領空への侵入に関連する最近の事件を受け、ロシアの不正行為に対する注目が高まっています。トランプ氏が、「これらの行為が繰り返される場合、北大西洋条約機構(NATO)はロシアの戦闘機を撃墜すべき」と発言したことで、地政学的な緊張が高まるリスクが明確になっています。これに加え、欧州連合(EU)は防衛支出を一層強化する必要性を再認識することになるでしょう。

財政拡大はこの先のユーロ圏の成長を後押しすると期待されますが、現時点では経済成長率は1〜1.5%程度と比較的低調に推移しています。また、中国からの輸入品が物価を押し下げていることを背景に、EUのインフレ・リスクは下振れ方向にあるとみています。したがって、欧州中央銀行(ECB)が来年再び緩和を行う余地があるかもしれませんが、少なくとも年末までは、ラガルド総裁は政策を据え置くと予想しています。

英国では、英予算責任局(OBR)の予測の見直しにより、政府財政に約300億英ポンドの不足が生じる可能性が高いと見られ、この不足を補うために小規模な増税が行われると見られます。現年度の財政政策が、ほんの一部の統計学者による長期的な予測によってこれほど大きく影響を受けているのは考えてみれば驚くべきことで、明らかにOBR設立時の意図とはかけ離れていることも思い起こしてみる必要があるでしょう。

実際、OBRがその有用性を失いつつあるのではないかという声も日増しに強まっています。結局のところ、長期国債利回りやスワップ・スプレッド、CDS市場が、すでに債務持続可能性に関する十分な情報を提供しています。ただし英国政府は現在、グローバルの利回りの動きに命運を握られた状況にあると言えます。もしグローバルで長期債利回りが低下すれば、スターマー氏やリーブス氏にとってのプレッシャーは和らぐでしょう。逆に、どこか他国で長期債利回りが上昇すれば、英国の問題はさらに深刻化する可能性があるでしょう。

また、スターマー氏が失脚し、労働党が左派寄りにシフトした場合、状況はさらに悪化する可能性があります。一例として、スターマー氏の後任候補と目される元議員であり、グレーター・マンチェスターの市長を務めるアンディ・バーナム氏が先週、英国メディアのインタビューで政策方針を明確にし、債券市場を批判するとともに、ソーシャル・ハウジング(公営住宅)支援のために400億英ポンドの追加借り入れを求めました。

日本では、来週末に控えた自民党総裁選挙に注目が集まっています。世論調査によれば、小泉進次郎氏が次期首相に選出される可能性が高く、同氏の政策的な枠組みに基づけば、円の上昇と日本国債利回りの低下が期待されます。この場合、日銀が10月末までに政策金利を0.75%に引き上げる可能性があると見ています。

インフレ率が依然として2%を上回り、逼迫した労働市場によって賃金も高止まりしている中、日銀が中立金利の水準についてもより明確に見解を述べたとしても不思議ではないでしょう。一方で、高市早苗氏が勝利した場合、株式市場にはプラスの影響があるかも知れませんが、減税を推進する同氏の政策により、債券市場や円相場にはマイナスの影響が及ぶ可能性があります。

為替市場では、強い経済指標が米ドルを押し上げました。貿易加重ベースで見ると、米ドルは夏の初めから続いていたレンジの下限を9月中旬に一時的に下回ったように見えましたが、足元では再びこのレンジの中央に戻っています。

したがって、短期的にはレンジ内の価格動向が続く可能性があるでしょう。ただし、今週の米雇用統計が市場予想を下回った場合、米ドル安への新たなきっかけとなり、当社の中期的な見通しと足並みを揃える可能性があるとみています。その他、円と英ポンドには、上述の国内の政治的不安を背景に圧力が掛かりました。

円については、ロング・ポジションに投資妙味があるかも知れませんが、自民党総裁選挙の終了を待つ必要があるでしょう。一方、英国では英ポンドのショート・ポジションを取っており、労働党政権に対する懸念が高まる中で同ポジションを積み増しています。

社債市場は引き続き需要に支えられ、堅調に推移しています。スプレッドは歴史的にタイトな水準にありますが、ここ最近では、ポートフォリオが分散されていれば、デフォルト・リスクは十分に補われる傾向にあることが、投資家に広く理解されつつあるのかも知れません。その結果、理論的にスプレッドはさらにタイトな水準に到達する可能性があると言えるでしょう。

加えて、国債の発行が過剰となっている中、政府の信用力に対する懸念の高まりにより、スワップ・レートが多くの国債利回りを下回る状況が続いています。このような観点から、社債は国債と比較すると割高に見えるかも知れませんが、「真の無リスク金利」と比較すれば、比較的妥当な価格評価であると言えるかも知れません。

取引面では、相対価値の観点から、スウェーデン金利に対して、ノルウェー金利のエクスポージャーを増やしました。ノルウェー中銀が利下げを行うと考えていますが、ノルウェー・クローネについては低迷した水準から引き続き上昇することを期待しています。

今後の見通し

今後を見据えると、米最高裁が、トランプ氏によるリサ・クック氏解任の試みを否定する、暫定的な判断を下すと予想しています。一方で、政府閉鎖を巡る責任の押し付け合いや、次期FRB議長に関する発表、国際的な政治および地政学的な問題が市場に影響を与える可能性があります。

先週は比較的静かな幕開けとなりました。とりわけ、国連本部におけるトランプ氏の演説中、会場が異常なほど静かで、6年前の嘲笑や笑い声とは極めて対照的であった点が印象的でした。波乱の年の最後の3ヶ月間が目前に迫っている中、この静けさが長く続くとは考えづらいですが、今は(国連のエスカレーターとは異なり)一旦立ち止まって、これからの展望を再評価する良いタイミングであると言えるでしょう。

本資料はブルーベイ・アセット・マネジメント・インターナショナル・リミテッド(以下、当社)が情報の提供のみを目的として作成したものであり、特定の投資商品の取引や資産運用サービスの提供の勧誘又は推奨を目的とするものではありません。また、金融商品取引法に基づく開示書類ではありません。本資料は信頼できると判断した情報に基づき作成しておりますが、当社がその正確性、完全性、妥当性等を保証するものではなく、その誤謬についての責任を負うものではありません。本資料に記載された内容は本資料作成時点のものであり、今後予告なく変更される可能性があります。また、過去の実績は将来の運用成果等を示唆・保証するものではありません。なお、当社の書面による事前の許可なく、本資料の全部又は一部を複製、転用、配布することはご遠慮ください。当社との金融商品取引契約の締結にあたっては、下記の投資リスク及びご負担いただく手数料等について契約締結前交付書面等を十分にお読みいただきご確認の上、お客様ご自身でご判断ください。

 

投資リスク
当社との投資一任契約に基づく運用においては、原則、外国籍投資信託を通じて、主に海外の公社債、株式、通貨等の値動きのある資産に投資しますので、基準価額が変動します。従って、契約資産は保証されるものではなく、投資元本を割り込むことがあります。運用による損益は全てお客様に帰属します。主なリスクとして、価格変動リスク、為替変動リスク、金利変動リスク、信用リスク、流動性リスク、カントリーリスク等があります。また、デリバティブ取引等が用いられる場合、デリバティブ取引等の額が委託保証金等の額を上回る元本超過損が生じることがあります。なお、投資リスクは上記に限定されるものではありません。

 

手数料等 
当社の提供する投資一任業に関してご負担いただく主な手数料や費用等は以下の通りです。手数料・費用等は契約内容や運用状況等により変動しますので、下記料率を上回る、又は下回る場合があります。最終的な料率や計算方法等は、お客様との個別協議により別途定めることになります。

 

Fee table

 

なお、上記には、投資一任契約に係る投資顧問報酬、外国籍投資信託に対する運用報酬が含まれます。この他、管理報酬その他信託事務に関する費用等が投資先外国籍投資信託において発生しますが、契約内容や運用状況等により変動しますので、その料率ならびに上限を表示することができません。