タックスマンは泣き、レイナーは笑う

Sep 08, 2025

長期国債において需給の不均衡が生じる中、納税者は過剰に支払っているのでしょうか?

コメント要約

  • 大きなサプライズがない限り、米連邦準備制度理事会(FRB)は今月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で25bpsの利下げを行い、10-12月期にも同様の動きが続くと予想されているものの、雇用者数の目立った減少や、失業率の上昇が示された場合、9月のFOMCでより大幅な政策変更が正当化される可能性も残されています。
  • 国際緊急経済権限法(IEEPA)関税収入の徴収が一時停止された場合、市場にショックを与える可能性があり、米国債のイールドカーブの更なるスティープ化や、米ドル安をを促すきっかけとなる可能性があるとみています。
  • 最高裁はFRBの独立性を保護すると考えられる一方、銀行監督などの権限にはその保護を適用しないなど、FRBの権限を再構築する契機となる可能性もあります。
  • 日本においては、イールドカーブの長期ゾーンのスティープ化が極端なレベルに達しており、これはファンダメンタルズでは正当化されない水準であると考えています。システミックな債券の過剰供給は、実質的に納税者にコストを課していると言えるでしょう。
  • 米中が脆弱な関係にある中、習近平氏、プーチン氏、モディ氏の協力関係は米国の制裁を強化させる可能性があり、タイミングは引き続き不確実であるものの、リスクオフを引き起こすきっかけとなる可能性もあるとみています。
  • 原油以外のコモディティ価格の上昇は、多くのEM発行体にとっての支援材料であり、地政学的懸念が燻りながらも、長きに亘って低迷していたEM資産全般に対する投資家の関心は高まっているようです。

 

先週の金融市場では、労働市場の指標に軟調さを示す兆候が見られたことを背景に、米国債利回りの低下基調が続きました。

金曜日に予定されている非農業部門雇用者数(NFP)において大きなサプライズがない限り、米連邦準備制度理事会(FRB)は今月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で25bpsの利下げを行い、10-12月期にも同様の動きが続くとの予想が広がりました。ただし、雇用者数の目立った減少や、失業率の上昇が示された場合、9月のFOMCでより大幅な政策変更が正当化される可能性も残されています。

一方、今週発表される消費者物価指数(CPI)も重要な指標です。インフレが比較的穏やかなままであれば、ホワイトハウス内でさらに積極的な利下げを求める声が一層高まる可能性があります。しかし、インフレが力強さを見せた場合、トランプ氏に任命されたFRB議長の下で、2026年も政策緩和が進められていくことによって、中期的な物価安定が損なわれるのではないかとの懸念が高まる可能性があります。

前週末、米連邦控訴裁判所は、国際緊急経済権限法(IEEPA)の規定に基づくトランプ米大統領の追加関税措置が、違法であるとの判決を下しました。この案件は連邦最高裁判所に進むと見られ、今後2~3週間以内に暫定的な意見が示されたのち、例外的に速やかに、年末までに最終判決が下される可能性があります。

最高裁に近い米国の弁護士と話したところ、法的には最高裁は控訴裁判所の判決を支持する可能性が高いだろうとの見方でした。こうしたことから、暫定的な判決によってIEEPA関税収入の徴収が一時停止される可能性があり、そうなった場合、市場にショックを与える可能性があります。

最終的には、トランプ氏が通商法232条など他の規定を根拠として、徴収額を概ね同等にすることを目指すと考えられます。しかし、この過程には混乱も予想され、大統領権限の過剰行使に関する懸念や、米政策の信頼性に対する疑念を再燃させる可能性があります。

その場合、米国債のイールドカーブの更なるスティープ化や、米ドル安をを促すきっかけとなる可能性があるとみています。

リサ・クック氏の解任問題についても、最終的に連邦最高裁が解任の正当性を認める可能性は法的には低いとの見方でした。

ただし、この訴訟が審理されるまでには数ヶ月間を要す可能性があります。それまでの間に、多くの詳細が開示される可能性があり、それによってクック氏の誠実さに疑問が投げかけられる、あるいは解任の主張を否定するようなことになるかもしれません。この文脈において言えば、クック氏の運命は世論によって決まる可能性もあると言えるでしょう。

さらに、クック氏の訴訟が最高裁に持ち込まれた場合、判決が分かれる可能性があり、このことが最終的にFRBの権限を再構築する契機となる可能性もあります。

具体的には、最高裁が金利政策に関しては大統領の干渉からFRBを保護する特別な措置を講じる一方、銀行監督など他のFRBの権限にはその保護を適用しない選択をする可能性があるということです。

この場合、FRBが現在監督している多くの活動が別の機関に移管され、金融政策に専念するより小規模で、効率的な機関として再編される道が開かれる可能性があります。

一部の人々は、このような道を辿ることが規制や監督の弱体化を招き、米国及び世界経済が将来的にシステミック・リスクにより晒されやすくなる可能性があると指摘するかも知れません。

しかし、現時点においては、そのような結果によって金利政策への干渉が排除されるのであれば、実際は市場にとって安心材料となる可能性があると言えるでしょう。

先週の初めも、長期債に対する投資家の関心が引き続き低下する中、世界の債券市場におけるイールドカーブのスティープ化のテーマが継続しました。

概して言えば、長期債への需要はこれまで、資産と長期負債の満期を一致させようとする年金基金から主に生じてきました。しかし、確定給付型(DB)年金制度は廃止されてきており、残存するものもすでに満期を一致させているため、長期債に対する構造的な需要は減少しています。

加えて、確定拠出型(DC)年金制度の投資家も、LDI(負債対応投資)的な投資手法にさほど関心を示していないことを踏まえれば、尚更です。

そのように需要が減少しているにも拘わらず、債券の発行機関による発行計画の対応が遅れており、市場が求める以上の長期債を発行し続けているように見受けられます。このような需給バランスの悪化が長期債利回りに重くのし掛かっており、イールドカーブがスティープ化し続ける理由の一端となっています。

ユーロ圏の利回りも先週、他の世界市場と同様の動きを見せ、ドイツ30年国債利回りは一時3.4%と、14年ぶりの高水準を記録しました。ドイツの財政関連指標において、これまでのところ控えめな支出増加が示されているにも拘わらず、です。

オランダの年金制度改革により、市場における長期債の最大の買い手の一つが消失していますが、ドイツの2年/30年のイールドカーブが、米国債のそれよりもスティープである点は注目に値します。ユーロ圏においては、欧州中央銀行(ECB)の独立性に対する懸念や、中期的なインフレ・リスクに対する懸念が存在しないにも拘わらず、です。

欧州のその他の地域では、週明けに予定されているフランスの内閣信任投票に注目しています。バイル首相が辞任することは確実とみられ、主な焦点は、マクロン大統領が社会党の支持を得られ、かつ中道右派も受け入れられる左派の新しい候補者を首相に指名出来るかどうかに移っているようです。

そのような結果とならない場合、解散総選挙が実施される可能性があり、極右の国民連合(RN)が好結果を得ると予想しています。実際、総選挙での勝利が、2027年の大統領選挙において、現状出馬禁止となっているルペン氏が立候補出来るよう法改正を進める道を開く可能性があることから、RNは総選挙を強く望んでいます。

一方、中道右派の政党はRNに議席を奪われることで大きな損失を被ると予想されるため、新たな選挙を避けたい意図があるとみられます。したがって、例えそれがより社会主義的な政府を支持することを意味したとしても、総選挙を避けるため、中道右派が富裕層に対する増税を伴う財政調整を受け入れる可能性もあるでしょう。

これらの政治的展開を精査する上では、複雑なゲーム理論が関与してきます。

仮に総選挙が回避されれば、バイル氏が提案していたほどの規模にはならないにせよ、財政統合を伴う予算案が支持される可能性があるでしょう。その場合、フランス国債のドイツ国債に対する上乗せ利回り(スプレッド)は70bpsを下回る水準まで縮小する可能性があります。しかし、そのような合意が得られず、新たに選挙が行われる場合には、スプレッドが90bpsを超える可能性が高いとみています。

最終的に、選挙が行われ、RNが好結果を得た場合、RNのタンギー氏のような候補者が首相となる結末になれば、スプレッドは少なくとも短期的に100bps以上に拡大する可能性があるとみています。

そのような水準であれば、フランス国債は割安と言える可能性があり、タンギー氏も結果としてイタリアのジョルジャ・メローニ首相のような足跡を辿る展開も想定されます。

しかし現時点では、フランス国債のショート・ポジションを維持することが賢明であると考えています。実際、フランスの街頭でのRNに対する抗議活動は1週間程度続く可能性があり、こうした映像も海外投資家を動揺させる要因となり得るでしょう。ただし、今後数日から数週間の間に、同ポジションをどのタイミングで手仕舞うのが適切かを、慎重に見極めていく方針です。

日本においては、イールドカーブの長期ゾーンのスティープ化が極端なレベルに達しており、これはファンダメンタルズでは正当化されない水準であると考えています。日本の10年/30年国債の利回り差が167bpsという水準は、とりわけ名目利回りが依然として非常に低い日本において、先進国の債券市場のバリュエーションとしては前例のないものです。

その結果、日本の30年国債利回りは3.3%を超える水準に達しており、15年フォワード・ベースで見た15年債利回りは5%に達しています。この利回りは2021年には1%を下回って取引されており、現在、1990年代初頭以来見られていなかった水準となっています。

現時点において、日本の財務省は、30年国債と10年国債のスプレッドが75bps以下に正常化するまで、超長期債の発行を行わないと発表することが賢明であると考えています。

日本国内の投資家は超長期債をそれほど多く保有していませんが、財務省による超長期債の過剰供給は、政府がこれらの満期で過剰な利回りを支払っていることを踏まえれば、実質的に納税者にコストを課していると言えるでしょう。

また、30年国債利回りの上昇は、財政持続可能性に対する日本の脆弱性というネガティブな印象を生み出しており、海外の政策当局者の間でも懸念が広がり始めています。実際、スコット・ベッセント米財務長官は最近、日本の長期国債の価格動向が世界の長期国債利回り全体に悪影響を及ぼしているとの懸念を表明しました。

英国では、政策面での曖昧さから、ここ最近の英国債のアンダーパフォーマンスが継続しました。これまでにも述べてきた通り、イングランド銀行(英中央銀行、BoE)は量的引き締め(QT)を停止すべきであると考えており、実際、同銀行がこれらの声に耳を傾け始めている可能性があるとみています。

同様に、英国債務管理局(DMO)は、上述した日本への提案と同様に、長期債の発行を一時停止することをより明確に示すべきであると考えます。

さらに、英政権が、市場のセンチメントを転換させるために取れる政策イニシアティブが幾つか存在しますが、それを実行するための決断力が求められると考えています。

例えば、ISA(個人貯蓄口座)の保有者に対し、これらの税制優遇措置を享受し続けるためには、今後50%を英ポンド建て資産に投資する必要があると通知することは、それほど悪い考えではないように思います。

このような措置は、市場の需給バランスの悪化に対処する一助となり、高い利回りがますます大きな財政赤字予測を引き起こし、それが債務持続可能性に関する懸念をエスカレートさせる「負のループ」を防ぐための助けとなるでしょう。

とは言いながらも、政府は単に増税を行うだけでは財政問題を解決出来ないと理解していることを、明確に伝える必要があると考えています。投資家の信頼を取り戻すには、スターマー首相とリーブス財務相が社会保障支出に対処する能力を示す必要があります。

実際、副首相(及び潜在的なライバル)であるアンジェラ・レイナー氏が、自身の3件目の住宅に対する税金未払いスキャンダルによって政治的に傷を負っている今、スターマー氏が主導権を取り戻そうとするには良いタイミングかも知れません。実際、このスキャンダルは「赤の女王(“Red Queen”)」(レイナー氏の伝記のタイトル)にとって痛手となっており、ギャングスタ風のスタイルで現金を見せびらかし、「Tax man cryin'. Rayner smilin'(タックスマンは泣き、レイナーは笑う)」とのラップとともに流れるAI生成のTikTok動画が拡散されていることも、彼女の支持層に好ましい印象を与えることはないでしょう。

社債スプレッドは先週はやや軟調な動きとなりました。季節的に新規発行が多かったことがスプレッドの再評価を引き起こしたことが背景にあります。新発債は既発債に対してそれほど目立ったプレミアムを提供しておらず、これまでのところ新規発行に参加する機会は比較的少なくなっています。

また、発行を担当するシンジケート・デスクは、取引をやや恣意的に割安な水準でマーケティングし、積み上がった注文リストを作成した後、注文が締め切られる直前に発行価格を再調整する手法にすっかり手慣れてしまった思います。結果として、当初のガイダンスに基づいて10倍の超過応募があった取引でさえ、発行後に弱含む傾向が続いており、投資家の不満の声がしばしば聞かれています。

それでも、新規発行プレミアムの消失は、発行体が最適な価格設定を達成出来ていることを示す、より効率的な市場の兆候であると主張することも可能です。

エマージング市場(EM)では、先週の中国軍事パレードでの習近平氏、プーチン氏、モディ氏の会合が多くの市場参加者の注目を集めました。米国に対抗する統一戦線を示すことは、地政学的な面での二極化を加速させる可能性があります。

このような観点から、米国がロシアへの制裁を強化し、EUやその同盟国に対してインドへの制裁や関税を求める可能性があるとみています。

米中関係はここ数カ月間比較的穏やかでしたが、その背景の一部には、米国が、中国との対立が激化した場合のレアアースに関連した戦略的脆弱性を認識したことが挙げられます。

しかし、これは関係改善というよりも一時的な休戦のように感じられます。したがって、習近平氏とトランプ氏の間の対立が、数カ月以内にリスクオフを引き起こすきっかけとなる可能性もあるとみています。

ただし、これがいつ、どのような形で発生するかを予測するにあたっては引き続き不確実性を伴い、金融市場が適切に織り込むには困難が伴うリスク要因であるとみています。

一方、(原油以外の)コモディティ価格の上昇は、多くのEM発行体にとっての支援材料であり、地政学的懸念が燻りながらも、長きに亘って低迷していたEM資産全般に対する投資家の関心は高まっているようです。

 

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