ロード・ランナーのごとく

May 07, 2025

トランプ氏は全速力で進んでいますが、現在のところ崖っぷちからは逃れられたようです。

コメント要約

  • 金融市場のボラティリティは落ち着きをみせており、米国株式市場も4月初めの急落から回復しているものの、今後数週間で、市場参加者のリスク許容度は再び悪化する可能性があると考えています。
  • 米中貿易戦争は引き続き重要な問題であり、どちらが先に対話に応じるのかは依然予測が困難です。
  • 米政権は、貿易交渉や在庫調整が影響を一定程度解消すると信じており、関税政策による潜在的な経済へのリスクを軽率に捉えているようにみえます。
  • カナダでは、トランプ氏の姿勢こそがカナダ自由党に勝利を与えたと言っても過言ではなく、新政権がどのように課題に立ち向かっていくのかは興味深い点です。
  • ここ最近は静かに推移しているものの、今年年初に想定していた以上に、懸念すべき環境になってきているように思います。

 

金融市場のボラティリティは先週も低下基調を辿り、米国株式市場も4月初めの急落から回復する中、数週間前の値動きの要因となった懸念の多くは、一旦解消したようかのようにも見受けられます。

しかし、先週のワシントンDCでの政策当局者との会合は、ある種の懸念をもたらす内容でした。今後数週間で、市場参加者のリスク許容度は再び悪化する可能性があると考えており、4月2日の「米国解放の日」以降の2週間で、市場の下落局面で追加したリスク資産へのエクスポージャーを、再び縮小させることを検討することが賢明であると考えています。

経済指標に関して言えば、第1四半期のGDPには「歪み」が見られることはこれまでにも指摘した通りで、基調的な需要は比較的堅調です。また、4月の数値もそこそこの水準を維持する可能性があるとみています。新規受注は落ち込んだように見えますが、企業は前向きに在庫を切り崩し、顧客層を安心させようとしているようであり、在庫が枯渇する頃までには、支払うべき関税が大幅に削減されてることを期待しているように見受けられます。これまでのところ、企業が労働者を解雇したり、価格の急激な調整を発表したりしている証拠はほとんど見られていません。

これは、トランプ大統領が仕掛けた貿易戦争の影響がそれほど悲惨なものではない、という印象を当初与えるかもしれません。しかし我々は、政策が転換されない限り、今から2ヶ月後に、崖から急落するような形での調整が起こる真のリスクを孕んでいるとみています。例えて言うのであれば、アニメ「ルーニー・テューンズ」に登場するワイリー・コヨーテが、(ロード・ランナーをつかまえようとして)地面が自分の足の下から消えていることに気がつかずにそのまま走り続け、ずっと後になってから必然的に重力の影響を受けたときに初めて、その状態を認識するようなエピソードに近いと言えるでしょう。

しかし、この点に関しては、政権関係者との先週の会合では、このような懸念が軽率にも無視されているように感じられました。それは例えば、以下のような考えです。在庫が少なくなれば、受注は自ずと持ち直すであろう。最初の通商交渉はすでに合意に至っており、まもなく発表される予定である。90日間の猶予期間が終了する前に、何としても合意を得たい国々が列を成しており、数週間後にはさらに良好な合意が続くだろう。この過程において、米国が、例え相手が同盟国であっても、好戦的な立場を取ることは理に適っている。これにより、米国の影響力を最大限に発揮することが出来るからである。その意味で、不確実性を生み出すことは、これらの交渉における米国の持ち札を強力にすることにもなる。

中国は別として、それ以外の国々は、10%の関税を確保するために何としても交渉妥結を願っているとの認識がある。その一方で、政権関係者らは、インフレに対するリスクは過大に見積もられていると考えているようです。それは次のような考えです。結局のところ、通貨などもよく10%近く動くものの、通常、それに伴う実体経済への影響は限定的。中国はまた別だが、必要に応じて例外・軽減措置を実施すれば、米国経済への問題は一定程度解消され得る。

いずれにせよ、米政権には中国依存を減らしたいという明確な願望があり、これは、リセットが必要であることを意味しているようです。政権関係者は、成長はいくらか鈍化するものの、これは受け入れるべき費用であると捉えているようです。さらに、物価の上昇は一時的なものであり、結果として米政権は、米連邦準備制度理事会(FRB)が今後数ヶ月のうちに利下げを実施すると予想しているようです。

このような米政権の姿勢は、憂慮すべき慢心の感覚を反映しているように見受けられます。その他のアナリストやアドバイザーとの会合では、はるかに大きな下方リスクが指摘され、トランプ氏が引き下がるよう周りから説得されることへの期待を共有しました。

しかし、このような印象は、ホワイトハウス内部からは感じられませんでした。その意味で、トランプ氏は意図的に貿易戦争を引き起こしていることは明確であり、今後のその方針に大きな変化を期待することは誤りでしょう。トランプ氏の言動の背景として、米国はグローバル化による敗者であり、長年苦しめられ、利用されてきたという感覚が根強くあるためです。

世界の製造業の30%を中国が担い、他の70%の国・地域に対しても中国が重要な部品などの多くを担っていることを踏まえ、米国がより自給自足出来るようにならなければならないという実感があるようです。

トランプ氏は、米国経済が底堅い状態にある一方、中国が低迷している機を捉え、今がまさにリセットボタンを押すべき時であると考えているようです。いかなる戦争においても、犠牲者が生まれ、経済的な痛みが生じることになりますが、米国をリセッションに陥れた1981年のレーガン大統領の政策のように、最終的には歴史がトランプ氏のアジェンダを正当化することになり、将来の米国をより力強い地位に導くであろうという感覚があるようです。

短期的には、米国と中国の貿易額は急落を続けるでしょう。中国政府は、その痛みの閾値が米国よりも高いと考えています。どちらが先に対話に応じるのかは依然予測が困難であるものの、少なくともそのときに会話が始まるのでしょう。

これら全てを考慮すれば、今年の夏に再び大混乱と市場変動を目の当たりにする可能性が高いと考えられます。ネガティブな供給ショックを回避することは出来ず、問題は、それが成長にどの程度深刻な影響を与えるか、またインフレをどの程度押し上げるか、ということです。

この点に関しては不確実性が多く、多くのシナリオも存在しますが、かつてFRB理事を務めた経験もある当局者と話した印象では、米連邦公開市場委員会(FOMC)にとっての現状の唯一の道は、慎重な、様子見姿勢を維持することのみであるとみられます。明らかに早期に利下げが実施される様子はなく、また米国債のイールド・カーブが既に年末までの大幅利下げを織り込んでいる中で、短期ゾーンは既に十分に低下しているように思います。

貿易政策そのものについては、これまで我々が期待していた、議会を通じた関税の法制化が実現する可能性が低いということが日増しに明らかになってきています。これまで、米国予算において関税収入を活用するためには、法制化が必要であると想定してきました。

しかし、連邦議会には、この責任を負う意欲はないようです。代わりに、予算ルールが実施される方法を変更する方が容易であるようです。つまり、関税収入の想定額が、財政調整プロセスに組み入れられることになると思います。

下院内および共和党内の各部門での勢力バランスが拮抗していることを踏まえると、米政権がより迅速な進展を望んでいるにも拘わらず、予算そのものが年末に近い時期まで成立しない可能性もあるでしょう。

その間、10月近辺には政府機関閉鎖に対する懸念が再燃する可能性もあるとみられます。多くのテーマについて超党派の合意が困難な状態では、尚更です。比較的早期に解決され、ほとんどダメージを受けなかった過去の政府機関閉鎖と異なり、今回は、より政府機関閉鎖が長期化することでダウンサイド・リスクが拡大し、リスク・プレミアムを押し上げるのではないかとの懸念があります。

米国の財政状況をより全体的に見れば、巨額の財政赤字によって、米財政が極めて脆弱な状態にあることは明らかです。経済サイクルから見れば、連邦政府は黒字となっていても不思議ではないタイミングであるにも拘わらず、です。大幅な景気減速や、それに伴う税収の減少、さらに追加的な支出の必要性を踏まえれば、米財政赤字が二桁に押し上げられるリスクも現実味を帯びています。

過去を振り返れば、これまでの景気後退は、景気後退局面に入る前の財政収支の水準に対して、年間で4%のマイナスが加わっています。政府効率化省(DOGE)の政策により、民主党寄りの政府機関が一掃されましたが、約12万人と想定される総人員削減は、債務やGDPの観点からは大きな影響をもたらしていないとみられます。さらに、これらの削減の多くが米内国歳入庁(IRS)で行われていることから、今後税収の確保に悪影響が見られた場合、実際には財政状態の弱体化につながるかもしれません。

FRBに関して言えば、米景気の悪化に伴い、トランプ氏によるパウエルFRB議長への個人攻撃が再開されると予想されます。これにより同議長が解任される可能性は低いとみているものの、秋頃には、パウエル氏の後任候補を指名する動きが見られる可能性もありそうです。

その点に関して、現時点ではケビン・ウォーシュ氏が候補者の筆頭に挙がると見られますが、トランプ氏がいかに気まぐれであるかを目の当たりにしてきたことからも、前もって判断をすることは困難でしょう。とは言いながらも、ウォーシュ氏が自らを「低金利の男」とほとんど考えていないことは、やや皮肉に思えます。さらに、同氏の過去の発言からは、インフレ率を目標に到達させたいという強い意志が見て取れます。したがって、仮に同氏が、今後数ヶ月でインフレ率が4%を目がけて上昇している最中にその職務を引き継ぐことになれば、ウォーシュ氏こそが、物価を引き下げるというトランプ氏の約束を達成することの出来る、適切な人物となるかもしれません。

以上をまとめると、この先を見据えたとき、米国の経済・政策的な環境は明らかに懸念材料です。また、今回の訪問は共和党に近い関係者との面談が中心であったことから、民主党に近い関係者の懸念はさらに顕著であることも想像に難くありません。

トランプ氏が実利主義者であり、自らの人気を高めるために取引をし、政策における勝利を求める人物であろうというこれまでの期待は、早急に変化をもたらしたいという、同氏のより深い心理的、かつイデオロギー的な欲求に対する懸念に置き換わりつつあるように思われます。結果として、トランプ氏が貿易戦争の引き金を引いたものの、米国自体はそれに十分備えていなかったような印象をもたらしています。しかしトランプ氏自身は熱中のあまり、その甚大な被害について、私たちが想定していたほどは心配していないようです。

スタグフレーション的な環境は、株式及び債券資産にとって困難な環境をもたらすかもしません。米国以外の市場はより持ち堪える可能性もありますが、米国でリスク資産に再び圧力が掛かれば、グローバル市場全体のトーンに影響をもたらすでしょう。極めて短期的に見れば、とりわけ現時点においてハード面の経済指標がそれほど大幅に悪化しない場合には、ここ最近のボラティリティの低下基調は続く可能性があります。

しかし、足元ではより慎重な姿勢に移行することが賢明であるとみられ、不確実性が高止まりする環境下において、ヘッジ・ポジションやダウンサイド・プロテクションの積み増しを検討することが適切であると考えています。一方で、金利デュレーションは足元では効果的なリスク・ヘッジではないと考えており、インフレや財政状況への懸念から、米イールドカーブはスティープ化する可能性があると考えています。

今後の見通し

先週はほとんどが米国の動向に注目する一週間となりましたが、その他の地域でおそらく最も注目すべき展開であったは、米国及びトランプ米大統領に立ち向かうことを約束したカナダ自由党とマーク・カーニー首相が、カナダ総選挙で勝利を収めたことでしょう。ほんの少し前の世論調査で自由党の支持率がいかに低迷していたかを踏まえれば、トランプ氏の姿勢こそがカナダ自由党に勝利を与えたと言っても過言ではないでしょう。

ただし絶対多数獲得には至らなかった中で、カナダの新政権がどのように課題に立ち向かっていくのかは興味深い点です。カナダはマクロ経済面に課題を抱えているほか、景気が低迷を続けた場合には、ケベック州やアルバータ州における分離主義的な傾向も、今後数四半期に亘ってリスク要因となるでしょう。

再び米国市場に話を戻せば、金融市場は現在、全てが上手く行くというストーリーを信じたいのであろうと思わずにいられません。コップを見たときに、半分しか入っていない(half empty)ではなく、まだ半分もある(half full)と捉えるような、楽観論が根強い気がします。しかし、5月を迎えるにあたり、今年の1-3月期に想定していた以上に、懸念すべき環境になってきているように思います。

これまでのように、市場のボラティリティが急上昇すれば、トランプ氏が一時的に矛を収める可能性はあるでしょう。しかし、米政権内では、市場は短期的な下落は取り戻す傾向があり、それを踏まえれば、姿勢を転換させる必要性はほとんどないとの認識が広がっているようです。

その意味で、この先数ヶ月間の間に市場参加者が考えを再度調整することが求められるとみています。ロード・ランナーのアニメと同様に、最終的には誰もが現実を直視することになることを、我々は知っています。したがって、先週ワシントンDCでミーティングを重ねるにつれ、不安の念は高まる一方でした..........

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