賢人たちは夜空に浮かぶ謎の光を追う

Dec 23, 2024

今年を振り返り、来年を予想する時期となっています。

2025年の予想

  • 2025年は再び成長における「米国例外主義」の年、しかし2026年こそリセッションを警戒すべき年になる?
  • FRBとBoEは年前半に政策据え置き、ただし日銀は利上げ、ECBは利下げを続ける
  • 全ての地域でイールドカーブはスティープ化、ただし日本の10年/30年は例外的にフラット化
  • 年初は米ドル高、ただし2025年を通して見るとG10通貨で円が最も値上がり
  • 社債ではスプレッド縮小傾向が息切れし、コンプレッションも反転に向かうことから、クーポンを狙う年に
  • 金利の高止まりがレバレッジや低金利借入に頼ってきたビジネスモデルに痛手となり、プライベート資産の一部には問題も
  • 8月のフランス総選挙では国民連合(RN)が勝利、ただし「ドイツのための選択肢」(AfD)はドイツ連邦議会で野党に留まる
  • 3月末にはカナダのトルドー首相がその座を追われ、マスク氏はDOGEで6月まで続かない、英国ではリーブス財務相(おそらくスターマー首相も)が来年10月までには退任か
  • チェルシーが2つのトロフィーを獲得、ただし24-25シーズンのリーグ優勝はお預けか・・・

2024年も終わりに近づき、先週は金融市場で活発に取引が行われる最後の一週間となりましたが、市場参加者の興味を引く話題に事欠かない状況が続きました。

米国では、米連邦公開市場委員会(FOMC)が大方の予想通りに政策金利を25bps引き下げました。しかし、これまでにも述べた通り、さらなる金融緩和は、景気の悪化とインフレ低下を示す経済指標の有無に左右されることになるでしょう。

その意味で、米連邦準備制度理事会(FRB)はおそらく2025年前半は政策を据え置くと予想しています。来年の経済及び政治情勢については依然として多くの不確実性が存在しますが、今のところ、米国経済は堅調な成長モメンタムを示しています。

政策金利は比較的抑制的とされる水準に留まっているものの、来たるべきトランプ政権による政策がインフレの上振れリスクにつながるのであれば、来年後半のFRBの行動は、利下げではなく、利上げとなる可能性もあるでしょう。

もっとも、この先1年での想定可能なシナリオを総合的に勘案すれば、短期債利回りは概ねフェア・バリューの水準にあるとみています。一方で、財政懸念が近いうちに後退する可能性は低いとの見方から、長期債利回りに対しては、この先数ヶ月間に亘って上振れ圧力が続く可能性があるとみています。

ユーロ建て債券は2024年に米国債を上回るパフォーマンスとなり、10年債利回りで見た米国とドイツのスプレッド(利回り差)は220bpsとなっています。

米国と異なり、ドイツ国債利回りは足元で預金金利を大幅に下回る水準で取引されています。これは、欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁らが今後数ヶ月間、さらなる政策緩和を続ける必要があるとの予想を反映したもので、先物市場においては来年夏の終わりまでに累計で100bpsの追加利下げが織り込まれています。

このような市場の見方は概ね妥当であるとみているものの、既に良いニュースの大半が市場価格に織り込まれていることを踏まえれば、現段階でユーロ圏の利回りに関して強い確信度を持つことが難しくなっています。むしろ、現行の経済政策と金融政策の乖離がより明確に現れやすいのは今後数ヶ月間の為替相場においてであるとみており、ユーロ/米ドルについてはパリティ(等価)を試す水準までユーロ安/米ドル高に向かう可能性が高いと考えています。

イングランド銀行(英中央銀行、BoE)は先週の金融政策委員会(MPC)において、政策金利を4.75%に据え置きました。これまでにも述べてきたように、景気の低迷にも拘わらず、英国のインフレ圧力は依然として高止まりしています。

これは、5.2%の伸びを示した最新の賃金データにおいても明らかであり、生産性の伸びが全く見られない経済において、BoEのインフレ目標と相容れない賃金の伸びが続いています。ベイリー総裁らは、この先さらなる金融緩和に向けた道筋を予測したいであろうと見られますが、経済指標によってその手を縛られてしまいかねない感覚があります。

英国債は他の国債を下回るパフォーマンスを続けており、2022年のトラス・タントラム時に記録した水準に近づいています。借入コストの上昇は財政状況の悪化にもつながっており、労働党政権は早くもそのアイデアを使い果たしてしまったとの見方も広がっています。

足元の動きが続けば、レーチェル・リーブス財務相が、その主張をしてから1ヶ月も経たないうちに、さらなる増税はしないとの約束を破ってしまう危険があります。

そんな中、ここ最近の世論調査において「リフォームUK」が支持を伸ばしており、次回の総選挙後の首相候補としてナイジェル・ファラージ氏が賭けサイトでトップとなっていることを興味深く受け止めています。米国におけるトランプ氏の躍進が、海外でも共鳴を起こしていると見られることは驚くべきことです。

日本では、日本銀行が先週、金融政策を据え置きました。ここ数週間では日銀が何らかの行動を起こすとの見方が市場で薄れていたことから、今回の決定も大きなサプライズとはなりませんでした。しかし、植田総裁が記者会見の場で、来年1月の利上げ観測を確固たるものにするであろうとの見方が大勢であったことから、これが実現しなかったことにより、円は再び売り圧力にさらされることになりました。

植田氏は、より多くの経済指標を確認したいと述べ、予めコミットすることは避けたいとしましたが、インフレ率が上昇し、この先の賃金交渉に向けたあらゆる指標が極めて堅調であることを踏まえれば、今回の日銀の意思決定に影響を与えたのは政治的要因であったのではないかとも考えてしまいます。

現在の自民党政権は極めて脆弱な立場にあり、金融引き締めを遅らせることは、党内の支持獲得に役立つのではないかとの見方があるためです。しかし、ハト派な金融政策は円の弱体化につながり兼ねず、これは国会の政策担当者の意向にも反するものでしょう。したがって、仮に経済指標がこの先もインフレの上振れリスクを浮き彫りにするのであれば、日銀は政策においてビハインド・ザ・カーブ(後手に回ること)となり、政策ミスを犯す可能性があるでしょう。

日本が本当に避けなければならない結末は、インフレのオーバーシュートの過度な進展を許してしまうことと言えるでしょう。もし、これが金融政策によって対処される必要があれば、将来のある時点で、深刻な痛みを伴う可能性があるためです。

したがって、日銀は来年1月に政策金利を0.50%に引き上げ、2025年末までに政策金利は1.00%に達するとの見方に確信を持っています。日本の10年国債利回りは、日銀の国債購入額が縮小するにつれて上昇し、10年/30年のイールドカーブのフラット化につながると予想しています。同ゾーンのイールドカーブは、他の国ではフラットすぎる一方、日本ではあまりにもスティープに見えます。

さらに、金利差の縮小は最終的に円の追い風になるはずです。すでに10年債で見た中国国債と日本国債の利回り差は50bpsとなっており、ドイツ国債との比較でも100bpsに近づいてきています。その点を踏まえ、引き続きユーロや人民元に対して構造的に円を選好しており、ユーロ/円は来年末までに1ユーロ=140円を下回る水準になると予想しています。

その他の国に目を向けると、カナダでは、クリスティア・フリーランド財務相が辞任したことに伴い、政治的リスクが高まりました。いまや早期の解散総選挙が視野に入ってきており、リスク・プレミアムが高まるにつれ、短期的にカナダドルに圧力が掛かっています。次期首相としては、カナダ保守党のピエール・ポリエブル党首が有力であるとみています。

同氏が首相に就任すれば、これまでのトルドー首相よりも、トランプ政権がかなりの歓迎ムードで受け入れる可能性が高いでしょう。トランプ氏はこれまで、トルドー氏や同氏の政策に対する嫌悪感をほとんど隠そうとしてきませんでした。

そのような点を踏まえれば、総選挙後はカナダドルが反発する可能性がありますが、短期的には、楽観視することは時期尚早であるように思われます。

社債のスプレッドは、年初来で最もタイトな水準に近い状態で年を終えようとしています。デフォルト率は低位に留まり、中央銀行が1年を通してバランスシートを縮小させてきたにも拘わらず、流動性は比較的潤沢なままです。

国債の供給が過剰になっている中、スプレッドの縮小という観点からは、市場の需給要因は国債よりも社債に有利な状況でした。

2024年は、景気後退懸念が払拭されていく中で、利回りの高い社債が高格付けの社債を上回るパフォーマンスとなる、「コンプレッション」取引が見られました。金融銘柄にとっても力強いパフォーマンスの1年となり、AT1債がアウトパフォームしました。クレディ・スイス破綻時の混乱は、今や遠い過去の記憶となりつつあります。

エマージング市場(EM)でも社債市場は堅調でしたが、EM現地通貨建て債市場にとって、今年は厳しい1年となりました。多くの国で、EM金利及び通貨がともに苦戦しました。

中国の成長見通しの悪化や政治的混乱、ブラジルなどの国における財政懸念が、ファンダメンタルズの重石となりました。また、トランプ氏がホワイトハウス復帰を決めたことにより、米ドル高や米金利見通しが上昇したことも、EM現地通貨建て債市場のセンチメントに痛手となりました。

社債では、堅調なパフォーマンスを踏まえたポジションの削減を継続しています。新年の新規発行増や、トランプ・ボラティリティに起因する投資機会出現の可能性を踏まえ、足元では社債のベータ・エクスポージャーを数年来の低水準に引き下げています。

現時点で、社債をショート・ポジションに移行するに際しての機会コストは非常に低いとみられますが、米国経済に対して引き続きやや前向きな見方を維持している中で、社債に対し過度に悲観的にもなっていません。

その意味で、リスクをフラットに近い水準に留め、スプレッドが拡大する局面があれば、より魅力的な水準でポジションを積み増す好機になると考えています。

一方で、ここ最近では金利やクレジットよりも、通貨において投資機会が増えている傾向にあると述べてきた通り、新年を迎えるにあたって、全体のポジションにおいてもそのような見方を反映させています。

今後の見通し

さて、2024年も終わりが近づいてきました。今年は、米国の成長に懐疑的であった人たちの見方が裏切られ、金利の低下に賭けていた人たちにとってもそれが実現しない、困難な1年となりました。

投資家は、依然として預金金利や現金に比べ、(日本を除いては)長期債を保有するための十分なプレミアムを得られていないと考えています。

また、スプレッドも極めてタイトな水準にありますが、その縮小の背景の一部には、供給過剰を背景とした国債の構造的な値下がりによって説明付けられると考えています。

過去数年間に亘り、成長やインフレに関する専門家のコンセンサスがあまりに要領を得なかったことから、経済予測に対する信頼はすでに揺らいでいます。

一方で、トランプ氏が再び大統領に就任しようという中、政治及び地政学的な不透明感は続き、経済的な不確実性は増大を続けているように見受けられます。

しかし、このような不確実性を踏まえても、政策及び政治へのフォーカスを続けることが、アクティブなマクロ投資家として投資機会を捉えることにつながると考えています。そしてそれは、実際に過去12ヶ月間、そして過去数年間に亘って、我々が続けてきたことです。

いかなる資産においてもベンチマーク・リターンを確信を持って予測することが難しい中、絶対的にリターン獲得を狙う、ロング/ショート的な投資アプローチには引き続きメリットがあると考えています。とりわけ、グローバルに見て、期間(ターム)やクレジット、株式のリスク・プレミアムが極めて圧縮された状態にある中では、尚更です。

今年も1年間、こちらの週次コメントをお読みいただき、ありがとうございました。皆さま、メリークリスマス!そしてどうぞ良いお年をお迎えください。

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