新たな季節が始まる前に、夏場の楽観

Aug 18, 2025

「ドン(ボス)」であるトランプ氏

コメント要約

  • 緩やかな米消費者物価指数は9月に米連邦準備制度理事会が25bpsを利下げを実施する期待の下支えとなっているものの、雇用ペースが鈍化し、インフレが引き続き穏やかであった場合に、リスクはさらに積極的な政策行動に傾いていると考えています。大幅なインフレ圧力がない場合には、イールドカーブのスティーブ化は進み、近い将来に利下げが実施されるとみています。
  • ホワイトハウスがエヌビディアに対し、売り上げの15%に課税することを条件に中国への先端チップ輸出を認める可能性があるという発表は、法的及び経済的な疑問を投げかけており、トランプ氏の貿易戦略は権力政治の優位性を強調しています。米財政赤字は対GDP比6%を超えるとみているものの、金融緩和と関税収入の見通しによって緩和される可能性があります。
  • 米イールドカーブのスティープ化トレードや社債のスプレッドは堅調なパフォーマンスを維持しており、欧州の金融セクターや銀行の偶発的転換社債(CoCo債)に投資機会を見出しています。リセッション・リスクの後退はリスク資産を押し上げている一方、世界的な資産配分のシフトが予想される中で、米ドルのショート・ポジションに注目が集まっています。
  • 欧州は軍事費やエネルギー会社の救済による財政赤字の拡大に直面している一方で、英国は高インフレ、生産性の低迷、財政困難に苦しんでいます。イングランド銀行に対する追加利下げへの期待が薄れる中で、英ポンドには構造的な弱さが反映される可能性があります。

 

先週の金融市場では、比較的穏やかな米消費者物価指数(CPI)が短期国債利回りの支えとなりました。CPIの内容は、米連邦準備制度理事会(FRB)が9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利下げを再開するという市場予測を大きく変えるものではありませんでした。

総合インフレ率が前年比2.7%に低下してきているということは、総合個人消費支出(PCE)インフレ率での物価が安定しているというFRBの定義と概ね合致しています。ただし、コアインフレ率が前年同月比3.1%に加速したことは、パウエルFRB議長および会合メンバーが、関税コストが消費者に転嫁されていく中で、インフレの上振れリスクに対して過度に楽観視する余裕がないことを改めて認識させるものでした。

結果として、米政策金利の今後の基本的なシナリオとしては、9月に25bpsの利下げが行われ、その後数四半期に亘って同規模の利下げが続くという見通しが、概ね妥当であると考えられます。もっとも、リスクはどちらかと言えば、さらに積極的な政策行動に傾いていると考えています。とりわけ、次回の雇用統計が最近の雇用ペースの鈍化を裏付ける内容となり、9月FOMC前の次回のCPI指標も引き続き穏やかであった場合には、尚更でしょう。

先週、ホワイトハウスがエヌビディアに対し、売り上げの15%に課税することを条件に中国への先端チップ輸出を認める可能性があるという発表があり、いくつかの興味深い疑問点が浮上しました。憲法的な観点から見ると、米国連邦政府には、海外に商品を輸出していることで米国企業に関税を課す権限はありません。

しかし、エヌビディアやアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)の場合、国家安全保障の観点からホワイトハウスが以前に課していた規制を回避するために、自発的に合意をしたようです。トランプ政権においては「お金が全て」という感覚があるのかもしれません。しかし、これにより、政権が次は果たしてどのような形で歳入を追求するのか、という新たな疑問も生じます。

この点で言えば、最近合意された(または課された)関税率が、強い反発がない限り、最終的に引き上げられる可能性もあるのではないかと考えています。一部では、最近の貿易交渉が「マフィア的なゆすり」に例える声もあり、トランプ氏がその「ドン(ボス)」であると言われています。

さすがにやや偏った表現かもしれませんが、ここ最近で明確になったのは、経済学の教科書を改訂する必要があるということでしょう。トランプ氏は、例え最終的にその結果が世界のGDPにとって有害であったとしても、経済を牛耳っていれば、それよりも弱い経済国との貿易戦争に効果的に勝利できることを示しました。

このような考え方は、リベラルなエリート層には受け入れられないかもしれません。しかし、社会経済学の理想が「ウォーク(意識高い)」系のリベラリズムの時代から、より攻撃的な権力政治が支配する世界へと移行する中においては、このような考え方は一考に値するでしょう。

短期的には経済活動の指標が弱含んでいるにも拘わらず、金融緩和や減税、規制緩和の見通しが、2026年の米成長予測の上方修正につながっています。このような見通しは、関税収入を増やすための継続的な措置と相まって、来年の米財政赤字を一定程度和らげる可能性もあります。

しかし、大幅な利下げが実行されたり、新規発行を割引短期国債や短期国債に偏らせる明確な政策が採用されない限り、米財政赤字は来年も対GDP比6%を超えると予想されます。

ステーブルコインの成長は疑いの余地なく短期債への追加的な需要を生み出し、米財務省は現在の債務の満期構成を短期化し続けることを正当化できるでしょう。しかし、より大幅な赤字削減のためには、政策金利が重要でしょう。

そのため、金融政策の決定は、将来の支出および課税の方向性を決定する上でも重要な役割を果たすことになります。このため、特に大統領がFRBの政策に干渉しようとする懸念がある中で、米国では「財政従属」という言葉が広まっています。

FRBの独立性は、金融市場の強さと信頼の基盤となる重要な柱であり続けています。ホワイトハウスでもこの点は認識されていますが、FRBが適切に説明責任を果たしていないこと、さらに急速に変化し、進化する米国経済において、新しいアイデアや思考に対して閉鎖的であるように見えることへの懸念があります。

このような文脈において、最近、米政権内の担当者と議論したアイデアの1つは、インフレが実際に政策金利(短期金利)の水準に敏感であるのか、それとも10年債利回りの方が、より重要なドライバーになっているのか、という点に関してです。もし後者が正しければ、短期金利が大幅に低下しても、それと同時に10年債利回りがそれほど大きく低下しない場合には、インフレへの影響は限定的であろう、との議論が成り立ちます。

実際、今回の利下げサイクルでは10年債利回りがほぼ横ばいで推移していることを踏まえれば、さらに大幅な金融緩和が実施されても、これがイールドカーブのスティープ化として現れる限りは、インフレへの影響は限定的である可能性が示唆されます。

このような考えは、2026年に向けてトランプ氏がFRBに期待する方向に向かうことに追い風となることから、引き続き2年債と30年債の利回り差のさらなる拡大によるイールドカーブのスティープ化を見込んでいます。この利回り差は現在110bps程度にありますが、年末までに150bpsを超える水準まで拡大する可能性があると考えています。

一方で、10年債利回りは引き続き最近のレンジ内で推移しており、債券市場においては当面、アウトライトで方向性を持ったポジションよりも、イールドカーブ取引や相対価値取引に、より魅力的な投資機会を見出しています。

リセッション・リスクの後退はリスク資産を支える要因となっていますが、堅調な企業の業績見通しもリスク資産を後押ししています。結果として、社債への需要がスプレッドのさらなる縮小につながっていますが、絶対利回りが低下した場合、利回りに敏感な投資家からの需要が減少することで、このような需給環境が反転する可能性がある点には注意が必要でしょう。

また、スプレッド水準を無視することも出来ないと考えており、上値余地が限られた銘柄を売却し、さらなるスプレッド縮小が見込まれる銘柄へと入れ替えるリバランスを継続しています。この点で言えば、ユーロ圏の金融銘柄や、より広範に言えば米国市場よりも欧州市場のスプレッドについて引き続き建設的な見方をしています。

銀行の偶発的転換社債(CoCo債)は堅調なパフォーマンスを続けていますが、これは十分に正当化されるものであるとみており、同資産クラスに関するリスクが再評価され続ける中で、これらの銘柄には引き続き上昇余地があると考えています。

その他欧州市場では、夏休み期間中ということもあり、市場は比較的静かな状況が続いています。この先予定されているアラスカでのトランプ氏とプーチン氏の会談は、ウクライナ紛争に関する突破口が見出されるか、という点において注目されています。

ただし、ウクライナ政府は領土を大幅に譲歩することに消極的であり、欧州もまた、ロシアが侵略的な政策の結果として利益を得るべきではないという考えに引き続きコミットしているようです。

ウクライナ支援のコストはますます欧州に負担されており、軍事部門への財政支出が増す中で、財政赤字の拡大が債券利回りに重石となっています。一方、デンマーク政府が過半数を所有する風力発電会社オーステッドの救済的な増資の報道は、主にトランプ氏の政策変更の結果として欧州が代償を払わされている1つの事例として、市場参加者の注目を集めました。

英国では、雇用関連指標で雇用ペースの大幅な鈍化の一方で賃金は堅調な伸びを示していますが、このことは、過去数年間で期待インフレが安定を失い、上昇しているとの我々の見方と一致しています。生産性の伸びがほとんど見られない経済において、賃金が5.0%のペースで成長しているため、コスト上昇は価格の上昇として転嫁され、経済成長がほぼ停滞している中でもインフレが4%程度に高止まりするであろうと考えています。

英国債利回りは、イングランド銀行(英中央銀行、BoE)による金融緩和にも拘わらず、他市場をアンダーパフォームし続けており、結果として借入コストが英国政府にとって継続的な懸念材料となっています。

増税のみでは、政策が成長の足かせとなり、インフレを押し上げるため、結局英国の財政問題を解決することは出来ないという認識が広がっており、手遅れになる前に暴走する政府支出を抑制することが急務となっています。

レイチェル・リーブス財務相は今秋の予算案で厳しい選択を迫られることになるでしょう。同氏が、これまで財務省内や労働党内の同僚から受けてきたと思われるアドバイスよりも、もっと良い助言を得て、それに従うことが出来ることを願うばかりです。

引き続き英国資産に対してネガティブな見方を維持していますが、バリュエーションの観点から現時点で英国債のショートを構築するのは魅力的ではないと考えています。ただし、BoEによる追加利下げへの期待が薄れる中で英ポンドがここ最近の上昇を続けた場合、英国に対する構造的にネガティブな見方を表現する手段として、英ポンドが魅力的となる可能性があるとみています。

今後の見通し

この先を見据えると、8月後半は経済指標の発表が比較的静かな時期です。但し、FRBが主催するジャクソンホール会議が今週の注目されるイベントですが、それまでは今年ここまでの中でも最も静かな1週間となる可能性があるでしょう。

週末には英サッカー・プレミアリーグがシーズン開幕を迎え、通常、全てのファンにとって最も希望と楽観に満ちあふれた瞬間となります(今年は、ニューカッスルのファンは例外かもしれませんが)。金融市場も、少なくとも国債市場以外では、サッカー同様に希望と楽観の瞬間を迎えているように見受けられます。しかし、これまたサッカーと同様に、この楽観がどれほど続くのか、という点は非常に興味深く思います。

サッカーに関して言えば、9月中旬までにはほとんどのファンタジー・フットボールのチームが関心を失い、忘れ去られることになるという現象がしばしば見られます。そして突然、どの監督が「解任レース」に勝つのかという賭けの話題で盛り上がることになります。

今は晴れた状況を楽しみましょう。再び雲が地平線に現れるのは「もし」ではなく「いつ」の問題かも知れませんので。サッカーについて言えば、今年もパーマー選手の活躍一色となることを祈っていますが、1年中彼がチェルシーのユニフォームを着ていることを望むばかりです……

 

 

本資料はブルーベイ・アセット・マネジメント・インターナショナル・リミテッド(以下、当社)が情報の提供のみを目的として作成したものであり、特定の投資商品の取引や資産運用サービスの提供の勧誘又は推奨を目的とするものではありません。また、金融商品取引法に基づく開示書類ではありません。本資料は信頼できると判断した情報に基づき作成しておりますが、当社がその正確性、完全性、妥当性等を保証するものではなく、その誤謬についての責任を負うものではありません。本資料に記載された内容は本資料作成時点のものであり、今後予告なく変更される可能性があります。また、過去の実績は将来の運用成果等を示唆・保証するものではありません。なお、当社の書面による事前の許可なく、本資料の全部又は一部を複製、転用、配布することはご遠慮ください。当社との金融商品取引契約の締結にあたっては、下記の投資リスク及びご負担いただく手数料等について契約締結前交付書面等を十分にお読みいただきご確認の上、お客様ご自身でご判断ください。

 

投資リスク
当社との投資一任契約に基づく運用においては、原則、外国籍投資信託を通じて、主に海外の公社債、株式、通貨等の値動きのある資産に投資しますので、基準価額が変動します。従って、契約資産は保証されるものではなく、投資元本を割り込むことがあります。運用による損益は全てお客様に帰属します。主なリスクとして、価格変動リスク、為替変動リスク、金利変動リスク、信用リスク、流動性リスク、カントリーリスク等があります。また、デリバティブ取引等が用いられる場合、デリバティブ取引等の額が委託保証金等の額を上回る元本超過損が生じることがあります。なお、投資リスクは上記に限定されるものではありません。

 

手数料等 
当社の提供する投資一任業に関してご負担いただく主な手数料や費用等は以下の通りです。手数料・費用等は契約内容や運用状況等により変動しますので、下記料率を上回る、又は下回る場合があります。最終的な料率や計算方法等は、お客様との個別協議により別途定めることになります。

 

Fee table

 

なお、上記には、投資一任契約に係る投資顧問報酬、外国籍投資信託に対する運用報酬が含まれます。この他、管理報酬その他信託事務に関する費用等が投資先外国籍投資信託において発生しますが、契約内容や運用状況等により変動しますので、その料率ならびに上限を表示することができません。