平和の王子様?

Oct 13, 2025

トランプ氏の願いは叶うだろうか?

コメント要約

  • 米国では先週、政府機関の閉鎖が続き、経済指標の発表が制限される中、債券市場の利回りはレンジ内の動きとなりました。
  • 仏ルコルニュ首相の辞任は、同国の政治的リスクを高めており、国民連合(RN)が良好な結果を残すであろう解散総選挙を回避しとうとする動きが見られています。今後数週間でフランスの信用格付けがA格に引き下げられる可能性が高いと考えています。
  • 日本では、自民党総裁選で高市早苗氏が予想外の勝利を果たし、日本国債利回りの上昇と円安、緩和的な財政・金融政策という政策スタンスによる不確実性をもたらしました。
  • 社債市場は先週も底堅さを維持したものの、ファースト・ブランズの破綻はプライベート・クレジット市場のデフォルト・リスクを意識させ、多くのファンドに大きな損失をもたらしました。
  • 米国での会合から得られた見解として、もしFRBの独立性が損なわれず、堅調な成長を背景にFOMCによる利下げがより控えめなものとなれば、米国成長例外主義の終焉がやや過度に取り扱われている可能性があると考えています。

米国では先週、政府機関の閉鎖が続き、経済指標の発表が制限される中、債券市場の利回りはレンジ内の動きとなりました。しかし、先週ワシントンDCで政策担当者との会合を行いましたが、雰囲気は通常と全く変わらないように見え、多くの点から、現在目の当たりにしている状況は極めて演出的なものであるとの印象を受けました。

今月15日以降、米軍の給与支払いが停止されることにより、月末に向けて妥協点を見出すためのきっかけが生まれる可能性はあるでしょう。しかしながら、米国の政治は依然として党派間で深く分断されており、両党はそれぞれ自分たちの防御を固めて信念を堅持すべきとの考えを強く持っています。

その他、今回実施した複数の面談からの大まかな結論として、米国経済は比較的堅調であるという点が挙げられます。減税や利下げ、規制緩和が今後予定されている中、来年の経済成長率は3%程度、もしくはそれ以上になるとの期待が広がっています。

雇用創出の見通しは弱いものの、これは主に移民政策の転換に起因するものであり、多くの側面から労働市場は非常に引き締まっているように見受けられます。実際、かつて評判の高かった米国の顧客サービスの水準は、これまでになく低下しているように見受けられます。このような状況下においては、失業率が安定するネットの雇用の分岐点が、実際にはゼロに近い水準である可能性があります。

このことは、今後非常に弱い雇用統計が発表され得るということであり、経済がトラブルに陥っていると受け止める人が出てくるかもしれません。しかし、もしそのような状況が発生した場合でも、それは認識違いである可能性が高く、米国金利のショート・ポジション構築の絶好のエントリーポイントとなるかもしれません。

インフレに関して言えば、ホワイトハウス内で、現時点では関税によるインフレ波及効果が比較的抑制されていることに対する満足感が広がっているようです。しかしながら、コア個人消費支出(PCE)が2.9%に達していることから、リスクは上方に傾いており、財価格の強さやサービス部門の粘着性のあるインフレにより、インフレ率が3%を超える可能性が高いとみています。

ある調査では、関税の恒久化によって生産者が失ったマージンを取り戻そうとすることから、関税導入後、3四半期および4四半期後になって、価格への影響が最も大きくなる可能性があることが示唆されています。住宅価格の緩やかな上昇や、原油価格の低下も、これまでのところインフレを抑制する要因となっています。

データセンターからの電力需要によって、足元で電気料金が上昇していることは目立ち始めているものの、それを除けば、インフレ率が4%に向かってさらに上昇する可能性を予想する人にはほとんど出くわしません。

この点において、インフレ率はそれほど大きな問題にはならない範囲に留まりますが、米連邦準備制度理事会(FRB)が金利を中立水準に戻す速度を制限する水準ではあろうとの見方が大勢です。それでも、米連邦公開市場委員会(FOMC)が今月末に再度利下げを行う可能性は高いとみられています。

経済指標における可視性が低下していることは、労働市場が予想よりも軟調であった可能性に備える「保険的利下げ」の考えの支えとなっています。この点で言えば、今年初めに政府効率化省(DOGE)の予算削減によって解雇された労働者が、6カ月の失業手当給付期間の終了に伴い、来月以降のデータに反映され始める可能性があります。

さらに、9月の利下げの際に、今回の利下げサイクルにおいて少なくとももう一度利下げを行う意図がFRBにあったこと、そして政府閉鎖に起因する若干の下振れリスクを考慮すれば、早期に利下げを再度実施することも理にかなっていると言えそうです。

次期FRB議長の選定プロセスについては、候補者リストに12名が挙げられていることでやや進展に遅れが見られ、今年末までには発表されない可能性が出てきました。

この決定に近い関係者の多くは、最終的にはスコット・ベッセント氏がこの職を引き受ける可能性が非常に高いと考えているようです。彼自身が以前この職を辞退する意向を示したことがあるにもかかわらず、です。低い確率ではあるものの、その後、ケビン・ウォーシュ氏、ケビン・ハセット氏、クリス・ウォーラー氏の順に候補に挙がっています。

しかし、より広まっている認識として、FRBがトランプ米大統領からの政治的圧力に過度に影響されることはないであろうとの見方です。確かに、トランプ氏自身は低金利を強く望んでいます(不動産開発業者なら誰でもそうでしょう)。しかし、トランプ氏にはインフレ上昇を避けたいという強い考えがあり、実際これが前回の選挙で重要な争点となったことに加え、この先の中間選挙でも鍵を握る可能性があることを理解しています。

また、前回の米連邦公開市場委員会(FOMC)において極めて積極的な金融緩和路線を推進したことにより、スティーブン・ミラン氏がFRB内で孤立しているという印象もあります。彼の見解を正当化するための主張は、他のFRBメンバーからあまり受け入れられていないようで、結果として、彼の意見に対する関心が薄れているようです。

このような点を踏まえれば、2026年を通してFRBが積極的に利下げを行うという見方はもはや適切ではなく、米経済が我々の予想通りに推移すれば、市場が現在織り込んでいるよりも少ない利下げ回数に留まる可能性があるとみています。またこれにより、イールドカーブのスティープ化を狙ったポジションにおいての寄与も制限される可能性があると言えるでしょう。財政赤字に関しては、現在、足元で赤字幅が減少傾向にあるという一定の合意があります。GDP比で6%を超える見込みではあるものの、より強い経済成長と低金利によって、トランプ氏の任期中にこの数字が低下することが期待されています。

欧州では過去1週間、フランスの政治情勢に注目が集まりました。先週初めのルコルニュ首相の辞任は、同国の政治的リスクを高め、国民連合(RN)が非常に良好な結果を残すであろう解散総選挙の可能性を浮上させました。

しかし、フランスの既成勢力は、ルペン氏率いる政党にこのような機会を与えたくないと考えています。そのため、首相と内閣に関して、十分な党派間支持を得られる新たな妥協案を模索する動きが進行中です。最終的に、現状を何とか乗り切ろうとする意向が感じられますが、その結果としてフランスの予算の改善はほとんど進まないでしょう。したがって、フランスの信用力は時間とともに悪化していく可能性が高く、大手格付け機関ムーディーズやS&Pが、今後数週間でフランスの信用格付けをA格に引き下げる発表をする可能性が高いと考えています。

ただし、解散総選挙がない限り、スプレッドがさらに大幅に拡大するための明確なきっかけは現時点では限られているかもしれません。このため、先週はフランス国債のショート・ポジションを解消しました。この先ボラティリティが低下し、政治関連ニュースの流れが落ち着けば、スプレッド縮小に向かう可能性があり、その場合には同ポジションを再構築することを検討します。

日本では先週、多くの出来事がありました。自民党総裁選で高市早苗氏が当選したことは、小泉氏勝利を予想していた金融市場や我々にとってサプライズでした。高市氏はインフレを抑制する決意を示しているものの、緩和的な財政・金融政策という同氏の政策スタンスはそれとやや矛盾するものです。

結果として日本国債利回りは上昇し、円は下落しましたが、株式市場は活況を呈しました。また、高市氏が日銀の金利政策に指示を出すような姿勢を取ったことも注目されました。日銀がこれまで完全に独立していたことはありませんが、日本の政策決定はこれまで一貫して合意形成を重視してきました。

日銀が金融政策を徐々に正常化するべきであると考えていることは明確ですが、もし新たに就任する首相にその動きを阻止されるようなことがあれば、市場の信頼を損なう可能性があるでしょう。ただし、高市氏は就任後、発言のトーンを和らげているようで、立場を軟化させる可能性もありそうです。

結果として、先週月曜日に超長期債の利回りが急上昇した日本国債市場は、ここ数日間では安定を取り戻しています。我々は引き続き、10年国債との利回り差という点で超長期債利回りに大きな価値を見出しており、超長期債に比重を置いた同ポジションを維持しています。

しかし、利回りがさらに上昇した場合に備えて、アウトライトでの10年国債のショート・ポジションを追加しました。また、高市氏の勝利を受け、円の小幅なロング・ポジションを手仕舞いました。円は非常に割安な状態にありますが、日本の政策スタンスは、円をショートし、その資金をキャリー取引に利用したいと考える人々を後押しするものであるように見受けられます。米ドルに対して円が160円に達するまで介入は行われないと見られるため、円のロング・ポジションを再び検討するのは、より良いタイミングを待つ方が賢明かもしれません。

より広範な為替市場について言えば、先週の米国での会合から得られた見解として、米国成長例外主義の終焉がやや過度に取り扱われている可能性があるという点が挙げられます。もしFRBの独立性が損なわれず、堅調な成長を背景にFOMCによる利下げがより控えめなものとなれば、米ドル安を引き起こす主要な要因の一つが弱まると考えられます。

資産配分の流れや国内回帰に関連するその他の要因が、米ドルの強気な見通しを抑制する可能性は残っているものの、米ドルのショート・ポジションに対する確信が弱まったことで、ここ数日間では通貨ポジションのリスクを削減しました。

そんな中、金価格の上昇が金融市場に何を意味するのかについても多くの議論が行われています。我々は、これが差し迫った問題の兆候というよりもむしろ、ポートフォリオ配分の一環であるとみており、不換通貨からの外貨準備金やポートフォリオの分散化の継続的な動きの一環であると考えています。

社債市場は先週も底堅さを維持しました。そんな中、ファースト・ブランズの破綻が話題となっており、プライベート・クレジット市場の多くのファンドに大きな損失をもたらしました。同市場ではデフォルト率の上昇が見られており、時価評価がされないという特性のもと、価格評価が変わらないと考えていた投資家にとっては懸念材料となるかもしれません。一方で、パブリックの社債市場における見通しは、より堅調に見受けられます。

政策当局の間では、強気の市場マインドセットや低金利、堅調な企業業績、そして力強い経済成長が、今後6~9カ月間でリスク資産にとって過熱感のある状況を生み出す可能性があるとの懸念があるようです。現在のバリュエーションには割高感があり、一部ではバブルの出現に対する懸念や議論も見られます。

現時点では、リスク資産におけるレバレッジは低水準にとどまっていますが、強欲が市場の主要テーマとなれば、レバレッジが蓄積される可能性があります。この点で言えば、社債市場においては2005年から2006年にかけての時期、株式市場においては1999年のナスダックで見られた状況を彷彿とさせます。当時、ナスダック指数は当初2倍の水準となり、5,000を突破したものの、その数カ月後には1,000まで急落しました。

この歴史自体にも教訓がありますが、同時に、強く逆の見方を示すこともまた難しいことを思い起こさせます。と言うのも、市場のピークは上昇局面で強気を貫いてきた投資家によってもたらされるのではなく、むしろ弱気の投資家が、その見方を最終的に諦める時に訪れるためです。

先週は、日本国債ではデュレーションをショートとし、米ドルのショート・ポジションを削減することで、これらのポジションを調整しました。高市早苗氏の勝利は、我々や市場の予想を覆すものでしたが、これを受けた対応です。

今後の見通し

今後数週間は政治的なサプライズが少なくなり、市場は再び経済のファンダメンタルズに焦点を戻すと見られます。米国では、政府閉鎖によるデータ不足が静かな市場環境をもたらす可能性はありますが、閉鎖が終了すれば、一気に多くの経済指標が発表され、注目を集めることになるでしょう。

そんな中、ワシントンDCでは、トランプ氏に関する議論もあり、彼自身がノーベル平和賞を受賞するに値すると公然と主張していることにも話が及びました。同氏が、過去1年間に米国の介入を通じて複数の世界的な紛争を終結させたと主張していることについては、多くの支持者がいることは事実でしょう。一方で、トランプ氏にはつきものですが、同氏への批判もまた多く存在しています。

ノーベル委員会は、2025年の平和賞が2024年の行動を対象としている点を強調し、トランプ氏が就任する以前の期間を対象であることから、来年の受賞の方がより正当化される可能性があると主張出来るかもしれません。

しかし、トランプ氏の希望を叶えなかった場合、同委員会やノルウェー自体が、トランプ氏から非常に厳しい批判を受ける可能性もあるでしょう。「平和を実現する人は幸いである(Blessed are the peacemakers)」とは聖書の言葉ですが、愛や謙虚さ、自己犠牲の精神で行動する者が評価された方が、(トランプ氏が受賞するよりも)人々に感動を与えるかもしれません。

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