最悪期は脱した?

Apr 21, 2025

嵐が過ぎ去った後の振り返り

コメント要約

  • 市場は一定の冷静さを取り戻し、4月2日の「米国解放の日」以来初めて、VIX指数が30にまで低下する場面が見られました。
  • 相互関税の一部の90日間停止により市場の混乱は収束に向かうことも可能ですが、産業別関税はサプライチェーンの寸断を加速させ、インフレ率の上昇と成長の弱含みを招く可能性があります。
  • 関税の不確実は、米国への製品輸送を遅らせ、商品不足を起こす可能性があるでしょう。
  • 米国の基調的な経済成長率は1%程度に留まるであろうと考えています(輸入によるノイズを無視した場合)。
  • 政策における信認を損ない、グローバルの投資家が米国に背を向け始めていることは、米ドルだけでなく、すべての米国資産の評価にとって重荷となるリスクがあると言えるでしょう。一方で、景気後退が回避される限り、社債市場はそれほど問題ないように思われます。
  • 欧州中央銀行(ECB)が、域内のインフレ・ショックが抑制されるとの見方を踏まえ、政策金利を2.25%に引き下げることは理解できるものの、市場が織り込むECBの利下げ回数は多すぎるとみています。
  • 日本及び豪州の長期債のバリュエーションは割安であると考えています。

 

今週の金融市場では、関税関連の報道にやや落ち着きが見られたことから、市場は一定の冷静さを取り戻し、4月2日の「米国解放の日」以来初めて、市場のボラティリティを示すVIX指数が30にまで低下する場面が見られました。

関税率引き上げに関連した不確実性は残るものの、相互関税の一部の90日間停止は、短期的な先行きがやや静かになることを意味し、市場の混乱は収束に向かうことも可能でしょう。

これまで、(中国を除けば)関税引き上げはあったとしても、多くの場合一時的となる可能性が高いとみていました。

さらに最終的に、関税は、今年後半に米国予算の文脈で、議会を通じて法制化されるであろうと考えてきました。関税の法制化がなければ、関税からの収入を予算に含めることは認められないためで、そこから得られた収入が追加的な減税に充てるために利用されるであろうとの見方を長らく維持してきました。

より具体的に、今年後半には一律10%程度の関税率が適用されるであろうこと、また、現状大統領令を通じて実施されている関税は、むしろ多くの交渉における基礎となるものであろうと考えてきました。その意味で、トランプ米大統領の矛を収めるために、各国が米国製品に対する自国の関税を引き下げるという期待感があるのかもしれません。

しかし、4月2日以降の広範囲に亘る関税導入における不手際は、米国の政策の信認を損ない、政策アジェンダを活用するための米政権の立場を弱める要因となっています。

多くの国々がトランプ氏に強く立ち向かおうとする中、7月初めを迎えたとき、米政権が一体どのような姿勢を取るのであろうかと思っています。

しかし、より穏やかな水準での関税適用の法制化への道筋が視野に入ってくる中で、他国が譲歩することを拒んだとしても、トランプ氏のチームは追加関税の適用をさらに後ろ倒しにする可能性もありそうです。

これが実現すれば、関税はほんの10%だと市場は歓迎するかもしれません。しかし、仮にそのような結果になったとしても、結果的には成長が弱含み、インフレ率が上昇する可能性を意識せざるを得ません。

また、米国経済をより自立可能なものとするため、必要不可欠な重要産業の国内回帰を確実にするように策定された産業別関税も、影響を及ぼす可能性が高いでしょう。関税の区分変更や例外規定などによってその影響の分析は困難となっていますが、関税の不確実性はサプライチェーンの寸断を加速させるだけでしょう。

この点に関して言えば、輸出業者は、将来関税が引き下げられることが期待される場合、現在の関税率においての米国への製品輸送を遅らせるかも知れません。この場合、新型コロナ時の供給ショック程ではないにせよ、商品不足が発生し、価格上昇につながる可能性があるでしょう。

さらに、不確実性の高まりは、投資家や消費者が目先の投資や高額な買い物を先送りすることにつながり、結果として成長への打撃となる可能性もあるでしょう。

しかしながら当面は、基調的な経済成長率は1%程度に留まるであろうと考えています(この先、金や貴金属の輸入によるGDP統計へのノイズを無視した場合)。

消費者および企業のバランスシートは健全な状態にあり、過剰なレバレッジは存在しません。失業率は上昇するものの、移民減少による労働市場の逼迫によって、これは限定的なものに留まる可能性があるとみています。

株価がさらに20%下落し、スプレッドが大幅拡大した場合、金融環境の急激なタイト化が起こり、確実に景気後退の領域に経済を押しやることになるとみられますが、これは最も可能性の高い展開ではなく、むしろリスクシナリオとして考えています。

一方、関税の影響が及び、米ドル安も物価見通しに悪影響となって、米国のインフレ率は4%に向かって上昇すると予想しています。

価格の上昇と成長の停滞の組み合わせは、おそらく、米連邦準備制度理事会(FRB)が金融政策において出来ることは何もないということを浮き彫りにするでしょう。パウエル氏は、既に自らの功績を意識しており、FRB議長として、インフレのコントロールを一度ではなく、在任期間中二度も失ってしまった、現代のアーサー・バーンズには成り下がりたくはないでしょう。

そのような点の踏まえれば、米10年債利回りのフェアバリューは4.5%前後とみていますが、投資家が米国資産保有に際してのリスク・プレミアムの上乗せを要求することで、この先米国債のイールドカーブはスティープ化していくとみています。このように、トランプ氏が政策における信認を損なうことは、今後当面の間、米ドルだけでなく、すべての米国資産の評価にとって重荷となるリスクがあると言えるでしょう、

また、成長における米国例外主義というテーマが消えて行くにつれ、グローバルの投資家が米国に背を向け始めているようです。TINA(他に選択肢はない)という概念が、割高なバリュエーションであっても海外投資家が米国株式を買い続けることを正当化する根拠でしたが、今やこれは根底から覆されているように見受けられます。

もし、過去に比べ米国への資本流入が減るとすれば、米ドル高相場は過去のものであると考えることが妥当かも知れず、円のように過小評価されているとみられる通貨は、今後数週間や数ヶ月間で上昇する余地があるかも知れません。

中国やその他の国々が、保有する米国債を大量に売却する可能性は非常に低いと考えていますが、この先米国債の需要が減るであろうとの予想は理にかなっており、結果として、仮にこの先は過去数週間と比べれば市場が落ち着いたとしても、米国の株式や債券が大きく上昇余地は限定的となる可能性があるでしょう。

米国以外の市場でも、リスク資産が概ね回復基調となり、ソブリン・スプレッドや社債スプレッドが縮小する動きが見られました。

欧州は米国製品に対する自らの関税適用を停止したことから、当分の間は、域内のインフレ・ショックが抑制されるとみられ、これを踏まえた上で、欧州中央銀行(ECB)が今週、政策金利を2.25%に引き下げ、4-6月期後半にさらに2%に引き下げることは理解できます。

しかし、同時に財政緩和が行われる見通しであることを考えると、市場が織り込むECBの利下げ回数は多すぎるとみています。独10年債利回りについては、2.75%近辺がフェア・バリューであるとみており、2.5%を下回れば割高であると考えています。

日本では、長期国債のボラティリティが高止まりする状況が続いており、ここ最近の海外市場の動向に加えて、同国国債の流動性が相対的に乏しいことが浮き彫りとなっています。

日本の30年国債は今月、ポジション解消によって大幅なアンダーパフォームを記録しています。しかし、日本国債のイールドカーブがスティープ化する中(30年債国債利回りは預金金利を200bps上回ります)、利回りが2.5%を上回る超長期債のバリュエーションは割安であると判断しており、これまで保有してきたポジションを積み増しています。

このようにスティープなイールドカーブは豪州でも見られており、豪州長期債については割安感が強まったとみて、ポジションを積み増しました。とりわけ、米国などのイールドカーブがフラットすぎる状態との比較においては、尚更です。

今後の見通し

今後を見据えると、市場ボラティリティについては最悪期を脱したと願っています。しかし、今週アジアで実施した幾つかの面談では、トランプ関税が貿易に及ぼしている影響が浮き彫りとなりました。

中国の輸出はこの先停滞する可能性があり、輸出品は既に港に積み上がっているようです。これは、他で製造された商品に必要とされる部品の不足につながっており、グローバルに部品を調達するというサプライチェーンは、その中で最も弱い部分と同程度の強さにしかならないということを忘れてはならないでしょう。

同時に、投資家のセンチメントに関連した調査は弱気の極値に向かっており、過去1ヶ月間で既に発生している負債解消の動きも踏まえれば、わずか数週間前に投資家の慢心を懸念していた当時よりも、市場が比較的健全な状態に向かっていることを示唆しているでしょう。

この点に関して言えば、この先トランプ氏のやり方は独断的ではなく現実的になるとみており、姿勢をさらに強めるよりは軟化させる可能性の方が高いとみています。

同時に、他の市場でリスク・プレミアムが正常化し始めたとしても、米国株式に対してそれほど強気な見方を構築することは困難であると考えています。

一方で、景気後退が回避される限り、社債市場はそれほど問題ないように思われます。

その点で、バイデン氏が2.5%~3.0%のペースでの経済成長をトランプ氏にプレゼントしたにも拘わらず、トランプ政権が完全なる自業自得で米国経済をリセッションに陥れるとすれば、過去まれに見る、歴史的な自虐行為として刻まれることでしょう。

また、金融市場は自信と信用に基づいており、いったん失われてしまえば、これを回復することは容易ではありません。したがって、トランプ政権は、米国の政策枠組みに対する市場の信頼を失うリスクは取りたくないはずです。とりわけ、FRBがそれを救済するための装備を十分に備えていない中では、尚更です。

もしかすると、トランプ氏はSNSでつぶやくのをやめ、もう少しゴルフに費やす時間を増やした方が身のためかも知れません.........

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