大きいが、美しくはない

May 26, 2025

コメント要約

  • 関税政策を巡るネガティブなニュースが中心的な話題となっている一方、米国政権はこれに対抗するためにポジティブなヘッドラインを生み出すことに力を注いでいます。
  •  広範な財政テーマは、グローバルな債券市場で話題となっています。欧州債券市場の利回りも、支出計画が引き上げられていることによる発行増の見通しによって上昇しています。
  • 先週1週間はルーマニアの資産価格に回復が見られました。ブカレスト市長のニクショル・ダン氏が、大統領選の決選投票で右派ポピュリストの候補者に勝利したためです。
  •  日本では、市場が吸収する余地のない中で、当初の発行計画を推し進めた結果、ボラティリティ上昇が加速し、債券市場の信頼感をさらに損なう結果となりました。
  •  今後1週間も、米国債の利回りが引き続き上昇するかどうかに注目が集まるでしょう。米30年国債利回りが5%を超えれば、イールドカーブのスティープ化や広範な投資家のリスク回避、株式などの長期資産への影響が予想されます。

 

この1週間、国債利回りは、イールドカーブの長期ゾーンを中心に上昇を続けました。政府債務の増加に関する懸念と、これらの債務問題に対する米国政策当局者の曖昧な態度がその背景にあります。トランプ大統領の「大きく、美しい法案(Big, Beautiful Bill)」が、下院と上院を通過するまでにはまだ時間が掛かりそうですが、トランプ氏の意向に反すると見られることや党の怒りを買うことを恐れて、財政タカ派は提案された法案に賛同するようプレッシャーを掛けられているようです。

 

メディケイド(低所得者向け医療保険)の削減計画は当初の計画よりも穏やかで、州・地方税(SALT)控除の上限引き上げも合意されたようです。トランプ政権はすでに減税にコミットしており、政府効率化省(DOGE)に関連した様々な騒動にも拘わらず、連邦政府の支出削減において具体的な進展がほとんど見られない中、財政赤字の予測においてリスク要因となるでしょう。減税に期限を設けることで、米議会予算局(CBO)による評価がより穏やかとなる可能性はありますが、「一時的な」減税が時間とともに恒久化する傾向があるということを前提に、市場はこの法案を分析することになるでしょう。

 

皮肉なことに、大手格付け機関ムーディーズによる直近の米国の格下げが、実際に予算合意を成立させるための支持を駆り立てたようにも見えるかもしれません。関税政策に関する否定的なニュースの流れを受けて、米政権にとって何らかのポジティブなニュースを生み出したいとの意向が強いようです。この点で、財政緩和的な予算は成長を促すものだと訴えることが可能で、一部には、それによって得られる成長から、減税パッケージの多くを賄うことができると主張する人もいるでしょう。

 

しかし、このラッファー経済学に触発された考え方は、日増しに拡大する債券投資家の懐疑的な見方に直面しています。投資家は、債務残高そのものと、債務返済費用が政府支出と税収に占める比率が、警報級の上昇となっていることを懸念しています。

 

我々の分析では、関税収入が年間約3,000億米ドルで、平均成長率が2%であると仮定しても、米国の財政赤字は7%程度と高止まりするとみています。関税収入が不足した場合、またはより深刻なのは経済成長が期待外れであった場合、財政赤字は上振れするリスクもあるでしょう。

 

さらに、利払い費が増大する中での借入コストの重要性は、利回りの動きも財政状況を左右することになるという点にあります。連邦政府の見積もりでは、金利と利回りが今後低下し、財政赤字削減に寄与すると想定しています。

 

しかし、インフレが高止まりし、経済が比較的底堅く推移している中、米連邦公開市場委員会(FOMC)が金利を引き下げる理由はほとんどないでしょう。一方で、仮に金利を引き下げても、投資家が長期債を保有するためのターム・プレミアムを要求することで長期利回りが逆方向に動くのであれば、財政赤字は高止まりした水準に留まることになるでしょう。

 

これを踏まえて、米財務省は、借入コストの上昇を抑えるため、債務残高の満期を短縮し続ける可能性があるでしょう。しかし、これまでよりも大きな金額で満期となる債務をロールオーバーし続ける必要が生じるということを考えれば、これ自体が将来の財政赤字のファイナンスという点で脆弱性をさらに高める可能性があります。

 

そうは言っても、あまりにも遠い将来の出来事を推測することにそれほど意味はないかもしれませんし、明らかに悲観的な見方の論者や債券自警団は何年も警告を発してきましたが、実際には空が落ちてくるようなことはありませんでした。

 

この観点からすれば、トランプ政権が当面、債券市場からの抗議の声を無視することは理にかなっているようにも見えるかもしれません。しかし、警戒すべきリスクは、長期債の利回りが、その利回り水準に惹き付けられる新たな買い手層からの支持を得られない限り、上昇し続ける可能性があるということです。

 

この点で、米国の個人投資家は長期債利回りが6%もしくは7%近くになれば、惹きつけられるのかもしれませんが、これは彼らが現在保有している他資産からの乗り換えとなります。したがって、政府債務の増加によるクラウディング・アウト効果によって、競合する他のあらゆる金融資産には深刻な試練がもたらされる可能性もあるでしょう。

 

そのうちに、長期債の利回りを下げて住宅ローン金利を支援するために、財政赤字を削減することが政治的に望ましいとなるかもしれません。しかし、一般的な考えや政治的な意見が、そのような転換点を迎えるにはまだ遠いように思います。この点から、政権当局は落ち着いて、政策を進めることに満足しているようです。経済サイクルの現在のような時点においては、米国の予算は本来均衡が取れているべきであり、これほど明らかな赤字を抱えているべきではないということを、政権内の多くが基本的に理解しているにも拘わらず、こうした状態にあります。本質的に言えば、米国政府は債券市場に挑戦状を叩きつけたとも捉えられます。最終的にやがて、十分な資本を惹き付けて利回りを安定させられるのか、もしくは市場タントラム(癇癪)のリスクが高まるのかが、自ずと判明するでしょう。

 

広範な財政テーマは、グローバルな債券市場で話題となっています。過去1週間、欧州債券市場の利回りも、支出計画が引き上げられていることによる発行増の見通しによって上昇しています。英国では労働党政権が財政目標を逸脱する兆候と、高インフレが相まって、英国債の利回りが上昇しました。

 

また日本では、国内の買い手がボラティリティの高止まりを警戒している中、財務省が長期債の発行を誤ったように思います。市場がこれを吸収する余地のない中で、当初の発行計画を推し進めた結果、ボラティリティ上昇が加速し、債券市場の信頼感をさらに損なう結果となりました。

 

このような市場に対する鈍感とも言えるアプローチは、米国や他の国と同様、日本のような国ではリスクを伴います。根本的なことを言えば、仮に政策立案者の不手際によって、利回りが過度に上昇する場合、この利回り上昇は自己実現的となる可能性があります。借入コストの上昇が、債務の持続可能性に関する懸念を増大させることで、さらなる利回り上昇をもたらす可能性があるためです。

 

この点において、日本の政策当局は、インフレ対策において後手に回って(ビハインド・ザ・カーブとなって)いないことを示すために、短期金利を引き上げるとともに、債券市場の状況を踏まえて発行額を市場の需要に合わせるべきであると考えます。おそらく、日本の国債利回りが長い間停滞していたため、市場のダイナミクスに関する専門知識と理解が欠けた状態にあることが、日本の政策当局にとって課題となっているのかもしれません。

 

他の市場に目を向けると、先週1週間はルーマニアの資産価格に回復が見られました。ブカレスト市長のニクショル・ダン氏が、大統領選の決選投票で右派ポピュリストの候補者に勝利したためです。EUとの対立に関連した懸念が大幅に後退するとともに、信用格下げへの警戒感も落ち着く中、トルコのようなはるかに脆弱なソブリン債と同等のスプレッド水準で取引されていたルーマニア国債は大幅に回復しました。

 

社債市場では、株価が堅調に推移していたことなどもあり、スプレッドは比較的安定した動きとなりました。過去数週間に亘り、社債投資家は、景気後退リスクが後退しているように見受けられることを歓迎しています。成長を促すであろう財政政策アジェンダも、クレジットにとってプラスとなる要因かもしれません。今のところ、米国債利回りの上昇はリスク資産にそれほど影響を与えていませんが、過去数日間ではそれに変化の兆候も見られています。

 

為替市場では先週、米ドルが軟調に推移しました。前週の中国との関税合意後、米国の成長見通しが上方修正され、貿易戦争の激化やサプライチェーンの混乱に対する懸念が後退する中、米ドルは当初上昇していました。しかし、米ドルの反発は一時的なものであったように見受けられます。

 

これまでにも述べた通り、多くのグローバル投資家が構造的に米ドルと米国資産に過度に資産を配分してきた傾向があり、足元ではこれを再考しているようです。資産配分の変更は、複数回の投資委員会で戦略的な変更について議論する必要があるため、数週間単位ではなく、数ヶ月もしくは数四半期単位の時間を要する可能性があります。ただし、ヘッジ比率調整に関する決定は、より迅速に行うことが可能です。この点で、これまで中立的なヘッジ比率に対して過小ヘッジとなっていた投資家の場合、最初のステップとしてその差を埋めるための行動を取っている兆候が見られています。

 

その意味で、当面の間は、米ドルが上昇すれば売りが入りやすくなることが想定され、米ドルは引き続き弱含む可能性が高いと考えています。足元では、引き続き日本円や韓国ウォンを選好しています。

 

ルーマニアの債券価格の回復は、過去1週間のパフォーマンスを押し上げる要因となりました。先週は、米国の2年/30年のイールドカーブでのスティープ化を予想したポジションを追加しました。当初ポジションを構築した90bpsに近い水準に戻ったためです。この投資も、過去1週間のリターンに貢献しました。

 

日本の長期国債は引き続き苦戦していますが、10年/30年債の利回り差が160bpsと、過度に広がっているとみており、イールドカーブのフラット化を予想したポジションを引き続き積み増しています。最終的には、ボラティリティが低下することが、日本の長期債のパフォーマンス向上の前兆になると考えています。この取引に関しては、プラスのキャリーを得られるものであることからも、当面の間は忍耐強く選好する方針です。

 

その他では、米ドル安基調もポートフォリオのパフォーマンスの追い風となりました。社債のポジションは概ね横ばいとなりました。

 

為替市場では先週、米ドルが軟調に推移しました。前週の中国との関税合意後、米国の成長見通しが上方修正され、貿易戦争の激化やサプライチェーンの混乱に対する懸念が後退する中、米ドルは当初上昇していました。しかし、米ドルの反発は一時的なものであったように見受けられます。

 

これまでにも述べた通り、多くのグローバル投資家が構造的に米ドルと米国資産に過度に資産を配分してきた傾向があり、足元ではこれを再考しているようです。資産配分の変更は、複数回の投資委員会で戦略的な変更について議論する必要があるため、数週間単位ではなく、数ヶ月もしくは数四半期単位の時間を要する可能性があります。ただし、ヘッジ比率調整に関する決定は、より迅速に行うことが可能です。この点で、これまで中立的なヘッジ比率に対して過小ヘッジとなっていた投資家の場合、最初のステップとしてその差を埋めるための行動を取っている兆候が見られています。

 

その意味で、当面の間は、米ドルが上昇すれば売りが入りやすくなることが想定され、米ドルは引き続き弱含む可能性が高いと考えています。足元では、引き続き日本円や韓国ウォンを選好しています。

 

ルーマニアの債券価格の回復は、過去1週間のパフォーマンスを押し上げる要因となりました。先週は、米国の2年/30年のイールドカーブでのスティープ化を予想したポジションを追加しました。当初ポジションを構築した90bpsに近い水準に戻ったためです。この投資も、過去1週間のリターンに貢献しました。

 

日本の長期国債は引き続き苦戦していますが、10年/30年債の利回り差が160bpsと、過度に広がっているとみており、イールドカーブのフラット化を予想したポジションを引き続き積み増しています。最終的には、ボラティリティが低下することが、日本の長期債のパフォーマンス向上の前兆になると考えています。この取引に関しては、プラスのキャリーを得られるものであることからも、当面の間は忍耐強く選好する方針です。

 

その他では、米ドル安基調もポートフォリオのパフォーマンスの追い風となりました。社債のポジションは概ね横ばいとなりました。

 

 

今後の見通し

今後1週間も、米国債の利回りが引き続き上昇し、過去に何度もこのような動きを抑えてきた支持レベルを突破するかどうかに注目が集まるでしょう。

 

この点で、米30年国債利回りが5%を超えれば、5.25%に向けてより急速に動く可能性があり、イールドカーブがスティープ化することが予想されます。仮にそれが実現すれば、株式などの長期資産の投資家が将来のキャッシュフローに対する割引率を上昇させることで、より広範な投資家のリスク選好に重石となる可能性があるでしょう。ただし、米国の個人投資家コミュニティでは現状、そのような分析をさほど考慮してはいないようですが。

 

他の市場が米国債の価格動向を無視すれば、いずれそれに目を向ける時点まで、利回りは上昇し続ける可能性があります。しかし、これがいつの時点で起こるのか、さらには果たしてそれが起こるかどうかを予測することには、多くの不確実性が伴います。

 

このような文脈において、比較的リスクを低位に留めるスタンスを維持し、価格が既にミスプライスとなって、ラインから大きく外れているように見える市場や資産(日本の10年/30年カーブの例など)で投資機会を探すことが賢明なアプローチであると考えています。

 

また、米国のイールドカーブのスティープ化に備えたポジションも、リスク資産に対する潜在的なヘッジとして魅力的と言えるかもしれません。リスク資産に重石となる成長懸念を示唆するような弱い経済指標が確認された場合、短期利回りが長期よりも大きく低下することが予想され、イールドカーブがスティープ化するためです。また、債券市場の混乱が広範な市場の巻き戻しにつながった場合、これもイールドカーブのスティープ化につながる可能性があるでしょう。

 

さらに、今後数ヶ月でイールドカーブの再フラット化をもたらす要因を見出すことは引き続き困難です。FRBが利上げを実施するなどの展開があれば別ですが、その可能性は極めて低いとみています。

 

スティープ化を予想した取引は市場コンセンサスであり、同ポジションはマイナスのキャリーであるものの、イールドカーブのスティープ化については本質的にリスクが非対称的になっており、そのことがこのポジションを取り続ける理由であり、今や米国債の短期ゾーンがこの先数ヶ月でのFRBの利下げをわずかしか織り込んでいないと考えています。

 

もちろん、米国債市場がレンジ内での取引を続け、支持線が維持される可能性もあります。短期的な財政懸念は誇張されているかもしれず、世界の終わりは近くないかもしれません。しかし、米政権の債務と債券市場全般に対する姿勢は根深いものがあり、市場が変化を強いるまでは到底変わらないであろうとも思います。

 

問題は、リスクに対して政権当局に過度な慢心が存在しているかどうか、です。彼らは、「大きいこと(Big)」が必ずしも金融市場では「美しいこと(Beautiful)」と同義ではないことを、理解する必要があるでしょう。

 

 

 

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