夏に向けて気温は上昇?

Jun 08, 2025

市場では貿易懸念がやがて消えるであろうと想定しがちでした。

コメント要約

 

  •  先週は、米労働関連指標の内容を受けて米国債利回りが変動しました。失業率が大幅に上昇する可能性が低いと考える中、現時点では経済の軌道に決定的な変化は見られません。
  • 5月のユーロ圏のインフレ率は市場予想を下回り、欧州国債の利回りを支える要因となりました。同地域における防衛支出に関する話題が再び注目を集めています。
  •  市場のボラティリティの低下によりヘッジ・ポジションを構築するためのコストが低下し、貿易交渉の話題が市場のリスクを高めると考えられる中、市場の価格動向はモメンタムを失う可能性があります。
  •  カナダで開催されるG7会合に向けて緊張が再度高まる可能性があり、7月9日のトランプ関税の延長期限日を前に、リスク資産にさらなる圧力が掛かるリスクがあるとみています。
  •  米政権に近い関係者は、株価も高値圏にある中で関税収入がすでに入って来ているなど、米経済が今のところ順調に進んでいると感じているようです。しかし、現時点では慎重なスタンスを取ることが賢明であるとみています。

先週は、週末に雇用統計の発表を控える中で、米労働市場の指標がいくらか軟化したことで、米国債が主導する格好でグローバルに国債利回りが低下しました。米貿易政策の影響により、幾らかの経済活動の鈍化は予想されていましたが、現時点では経済の軌道に決定的な変化は見られません。

米国政府が移民を抑制することで労働市場を引き締めているため、失業率が上昇し、景気後退が起きることへの懸念が再燃することはないと考えています。このような状況を踏まえ、利回りの全体的な方向性については、依然として不明確であるように思います。

より明確な情報や、新らたに決定的な材料がない限り、米連邦準備制度理事会(FRB)は当面の間、政策を維持するように思います。この点において、米連邦公開市場委員会(FOMC)は経済指標と同様に、物価における新たなトレンドにも注目するとみられます。直近のコア個人消費支出(PCE)は、インフレの急上昇に関連した懸念を和らげる要因となりました。

しかし、関税が維持される中、今後数ヶ月で見れば価格の上昇が確認される調整期が訪れることは避けられないと考えています。石油輸出国機構(OPEC)は先週末の会合でさらなる供給増を発表しましたが、米ドルの軟化によって、原油価格は1バレル60米ドル以上で底堅く推移しています。

米国債市場においては、引き続き2年/30年カーブのスティープニングに備えたポジションを選好しています。米予算は現在上院で審議されていますが、メディケイド(低所得者向け医療保険)支出の削減計画に対する一定の抵抗が見られるリスクがあります。米国の財政赤字が早期に縮小に向かうという証拠はほとんど見られません。

この点に関して言えば、最近政府効率化省(DOGE)を辞任したばかりのイーロン・マスク氏が、予算の支出条項に対して批判的な見解を示したことを興味深く受け止めています。政府関係者は、強い成長や巨額の関税収入、借入コストの低下という組み合わせに期待し、米国の予算を均衡に戻そうとしているようです。

しかし、これらの多くは希望的観測に見えます。トランプ氏は、税金を削減するとともに支出を増やしたいと考える大統領で、真の緊縮財政にはほとんど関心がない大統領であるということを改めて認識するべきであるように思います。債券市場がその方針の変更を強いない限り、あるいは強いるまでは、政治的観点からこのような流れが変わる可能性は低いと考えています。

先週発表された5月のユーロ圏のインフレ率(速報値)は市場予想を下回り、欧州国債の利回りを支える要因となりました。政治関連では、直近のポーランドの大統領選における右派ポピュリスト候補者の躍進や、オランダにおいて極右政党を率いるウィルダース氏が与党連合からの退陣を発表したことにより政権が崩壊したとの話題が、欧州各地の根底にあるポピュリスト的な感情を改めて浮き彫りにしました。

一方、ドイツ主導で、EUの政策立案者が計画していた防衛費を増強する中、防衛支出に関する話題が再び注目を集めています。ドイツの防衛支出がGDPの5%に達する可能性があるという見方は重要です。ここでは、政府の負債増やドイツ国債の発行増などの可能性が、現時点では市場で見過ごされている恐れがあるとみています。

短期的には、欧州資産は資金流入の増加による恩恵を受け、ここ数週間で他地域を上回るパフォーマンスとなってきました。しかし、財政リスクが過小評価されている可能性があることを踏まえれば、利回りがさらに低下するかどうかについてはやや慎重にみています。

一方、英国は防衛支出をGDPの3%に引き上げる時期について、依然として明言を避けています。このことは、これまで欧州の多くの国と比べてその規模が大きかったとは言え、英国の防衛支出が今後数年間、欧州の水準を大きく下回ることを意味しています。

この点で言えば、ロシアに近い国々においては、ロシアやウクライナとの地理的な近接性があることが、人々の考えに影響しているようにも見受けられます。その点、英国では困難な財政の選択肢に直面し、社会全体がむしろ医療などの公的サービスの改善に対する支出を望む中、有権者の間で軍事支出に対する熱意がほとんどないように見受けられます。

そのような状況を踏まえれば、スターマー政権は、財政の枠組みと債券市場との間で板挟み状態にあると言えるでしょう。この先当面に亘って、そのような状況が大きく変化する余地は限られているようです。したがって、スターマー氏らは、壮大なコメントやジェスチャーを駆使し、ある程度は剣を振るうことも出来るでしょう。

しかし、人口の半数以上が、どのような状況でも武器を取ることはないと述べている中、国内には戦いに対する意欲はほとんどありません。このような点から、英国は今後、敵からは今以上に「張り子の虎」とみなされる可能性が高いでしょう。

これまでのところ、株式やその他のリスク資産の投資家は、市場が不安の壁に突入する中、買い続けることで報われる状態でした。しかし、このような価格動向はそのモメンタムを失いつつある可能性があり、より慎重なスタンスを取る時期であると考えています。この1ヶ月で市場のボラティリティが低下したことから、ヘッジ・ポジションを構築するためのコストは大幅に低下しました。慢心が高まったと見られる期間を経て、この先貿易交渉が再び注目の的となれば、ボラティリティがこの先1ヶ月で再び大幅に上昇することがあっても不思議ではありません。

為替市場では、ここ最近の株価の上昇にも拘わらず、貿易加重平均で見た米ドルが3年ぶりの安値に下落しました。資産配分の転換が米ドル需要を減退させているという話題を継続的に耳にしており、このような傾向は続く可能性があるとみています。実際、米ドルが過去数ヶ月間、自らリスク資産のように取引されてきた傾向があることを踏まえれば、ボラティリティが再度上昇した場合には、より急激に下落する可能性も十分に想定されます。

 

今後の見通し

先週末に掛けては雇用統計が市場の焦点となりましたが、6月全体を見据えると、市場の焦点は貿易に移ると考えています。カレンダーが夏に移行するにつれて、金融市場の温度も上昇し始めるリスクがあると考えています。

5月の市場は貿易懸念の緩和がテーマになりましたが、ここ数日間では米国がEUや中国に対して再び発言を強めており、緊張が再度高まる可能性がありそうです。市場では貿易懸念がやがて消えるであろうと想定しがちでした。しかし、今月中旬にカナダで開催されるG7会合に向けてこれらが再浮上し、7月9日のトランプ関税の延長期限日を前に、リスク資産にさらなる圧力が掛かるリスクがあるとみています。

米政権に近い関係者と話すと、経済が今のところ順調で、(まだ)インフレの上昇が見られず、株価も高値圏にある中で関税収入がすでに入って来ているなど、米国にとって物事は非常に順調に進んでいると感じているようです。しかし、傲慢な見方はリスクの高まりを見過ごしてしまう可能性があると考えており、このような視点から、現時点では慎重なスタンスを取ることが賢明であるとみています。

驕れる者は久しからず、という言葉があり、金融市場でのそのような動きのタイミングを見極めることは難しいものの、現時点では、投資家が多くのリスクを取ることに対して得られる報酬は少なすぎると感じています。したがって、今後市場が混乱し、バリュエーションがより魅力的になった際に、割安な価格で資金を投下するため、現時点では資金を待機させることがはるかに魅力的と言えるかもしれません。

もちろん、株式市場は個人投資家に買い支えられ、今後も勢いを維持し、懐疑派にその見方の誤りを証明するかもしれません。しかし、関税の期限が近づくにつれて緊張が高まるという考えには、一定の論理的な訴求力があります。

ある意味では、夏に向かうにつれて温度計の針が上昇していくことを期待するのと同様に、合理的であるようにも思います。4月に見られた市場ボラティリティからパフォーマンスを引き出すことは、多くの人にとって困難であったようです。しかし、今後もそのようなイベントや投資機会に事欠かないであろうと確信しています。トランプ氏の下、マクロ面でのボラティリティが消え去ることは当面ないでしょう。

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