市場がトランプ氏を服従させる?

Apr 27, 2025

トランプ氏は戦いの中で後退を迫られているものの、同氏が軸足を再び前に進める可能性も排除出来ません。

コメント要約

  • 金融市場は先週、トランプ氏がパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長を解任するつもりはないと発言したことから、週末に掛けては回復基調となりました。
  • 米中関係の悪化は既に両国間のサプライチェーンに大きな打撃をもたらしており、サプライチェーンへのダメージは、短期的には経済活動にとって極めて破壊的なものとなり得ます。
  • グローバルで投資家による資産配分の見直しが続く中で、今月は米ドルがほとんどの通貨に対して下落しています。
  • 欧州市場は、先週一週間は海外動向を受けた動きとなりました。とは言いながらも、欧州市場の日々の値動きは、米国市場の動きに依存しなくなっているように見受けられ、相関は低下しているようです。
  • 日本では、関税引き下げのための貿易取引を目指す交渉が焦点となっています。米国は、太平洋地域における日本の戦略的重要性を考慮すれば、日本との緊密な関係を維持したいであろうとみています。

 

金融市場は先週、週初にトランプ米大統領がジュローム・パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長解任の方向に動いているのではないか、との懸念によって下落したものの、その後はトランプ氏が同氏を解任するつもりはないと発言したことから、週末に掛けては回復基調となりました。

トランプ氏は、金利低下に対する望みを隠そうとしていないものの、自身の政策がインフレ率を押し上げることから、FRBが、景気への下方リスクを見据えつつも、金融政策に対してより慎重な路線を歩んできていることは不思議ではありません。

実際、FRBが独立性を重んじていることを踏まえれば、短期的には、FRBが大統領の影響力や市場操作に屈したと見られることを恐れ、政策金利を引き下げる可能性はむしろより一層低下する可能性があるとみています。

この点において、この先景気が減速していく中で、今後数カ月の間にトランプ氏の怒りの矛先がFRBに向けられることは不可避であるように思われます。しかし、金融市場は、金融の安定のための最終的な保証人かつ管理人としての機能を期待されるFRBの自主性を損なうようなPOTUS(アメリカ合衆国大統領:President of the United States of Americaの略称)の発想を、容易には受け入れないことでしょう。

結果としてトランプ氏は、直接介入するのではなく、脇から野次ることに徹するしかないかも知れません。このように、金融市場が大統領権力に対する抑止力として作用しているような印象を受けます。今月初めに、トランプ氏が追加関税に90日間の猶予を発表せざるを得なかったことからも、市場の価格の動きに対して米連邦公開市場委員会(FOMC)が政策緩和を行う、いわゆる「FRBプット」ではなく、グローバル市場が「米国売り」へと向かう価格動向が見られれば、むしろトランプ氏の破壊的政策を後退させたり、あるいは骨抜きにする効果に注目が集まっている「トランプ・プット」が存在していると結論付けることは、妥当であるように思えます。

貿易に関しても、米中が相互関税を急速にエスカレートさせ過ぎたことで、今や経済的被害を軽減する水準まで妥協する必要があるとの認識が日増しに広がっているようです。「米国解放記念日」以来、両国間の物資輸送は大きく崩壊しました。5月初めには、米国の港は空っぽとなり、トラック輸送業者は行く当てもなくアイドリング状態であることが明らかになることでしょう。サプライチェーンへのダメージは、短期的には経済活動にとって極めて破壊的なものとなり得ます。

同様に、ここ最近海外資本が米国から離れる中で米ドル安が進み、物価は既に上昇基調にありますが、部品の不足が物価上昇圧力にさらに拍車を掛ける可能性があるでしょう。この点において、米国政府が、米国の中国への依存を終息させたいという強固な願望からシフトするとは想定しづらく、世界の2大経済大国間での目覚ましい関係改善は期待出来ないとみられるものの、より現実的なアプローチによって、生産と供給の変化をより段階的に再編し、貿易が突然停止する、いわゆる「コールド・ターキー」といったショック療法の可能性は緩和されるかも知れません。

今週、ワシントンDCで政策当局者やアドバイザーと面談をする予定となっており、それを通じて、貿易及び関税がこの先どのように解決に向かうのかに関する我々の考えを精査する予定です。これに関して言えば、歳入を増やして他で減税を実施するために、関税は最終的に予算という形で議会によって法制化されるとみています。現時点では、(中国を除いて)10%の一律関税が妥協策になる可能性があるとみており、2026年に向けてより明るい見通しを持てる環境を作り出すかも知れません。このような観点から、我々は、大統領令を通じた追加関税は、むしろ交渉するという姿勢を示しているものと考えています。

しかし、トランプ政権が関税政策の取り扱いやコミュニケーションに失敗したことで、米国が望んでいた成果を得るための交渉能力が大きく損なわれてしまったと言えるでしょう。結果として、追加関税は90日間の猶予期間を超えてさらに延期される可能性があり、4月2日に概略が示された関税策の多くは、日の目を見ない可能性もあるとみています。

米国市場をより精査してみると、預金金利が4.3%近辺に留まる中では、米国10年債利回りのフェア・バリューは4.5%前後にあるとみています。利回りが4.2%を下回れば、金利デュレーションのショート・ポジションが有効となり、逆に4.8%を上回れば、利回りにより前向きな見方をすることが出来るでしょう。一方で、より大幅なターム・プレミアムが要求されるとみられることから、米国債のイールドカーブは徐々にスティープ化すると予想しています。

しかし、利下げが実施されない環境下では、イールドカーブの短期部分は既に十分に低い水準にあり、今後短期債利回りが低下しない限り、当面はイールドカーブのスティープ化の程度は抑制されることになると思われます。

現時点において、米国債の中で最も投資妙味があるのは物価連動国債(TIPS)であるとみています。足元のマクロ経済動向はインフレ率を押し上げるとみており、ここ最近のブレークイーブン・インフレ率の低下は理屈に合わないと考えています。これを踏まえて先週は、TIPSを通じたエクスポージャーを追加しました。絶対水準で言えば、米10年の実質利回りは2%未満が妥当であろうとみています。

その他では、政策面での進展が為替市場の大幅な調整につながるきっかけとなり、今月は米ドルがほとんどの通貨に対して大幅に下落しています。米国の政策決定に対する信認が失われたことで、米国では債券や株式、通貨の全てが下落しており、海外投資家は米ドル建て資産において多額の損失を被っているとみられ、資産配分についてある種の自己反省が行われていることでしょう。

米国の政策行動が世界各地で様々な怒りや憤りを呼び起こす中、既に消費者が米国製品をボイコットする動きが見られており、これは資本配分にも言えることかも知れません。成長における米国例外主義の概念が薄れ、とにかく米国株式に資金を積むという、これまで当たり前とされてきた原則が試されている中、余剰資金が米国資産、あるいは米ドルに投資される可能性は低下していると言わざるを得ないでしょう。

資産配分のシフトは、数週間ではなく、数四半期及び数年に亘って実施されていきます。しかし、最近実施したアジアの投資家とのミーティングでは、興味深いことに多くの投資家が構造的に米ドル資産に過度な配分をしており、足元でこのバイアスを再検討しているようでした。したがって、米ドルは近年複数年に亘って国際資本移動の受益者であったのものの、この先長期的な米ドル安につながり兼ねない、重要な転換点を目の当たりにしているのではないかとも思えてしまうほどです。

通貨では、年初来で日本円を選好しており、足元でもそのような選好を維持しています。わずか数ヶ月前に1米ドル=160円という水準であったことを踏まえれば、140円がこの先ドル円相場の試金石となるかも知れません。ただし、円がユーロや他の多くの主要通貨に対しては安定的に推移していることから、これまでの動きは円高というよりはむしろ全て米ドル安に起因するものであったとみています。

短期的には、ここ数週間で、より短期の投資家が米ドル安に飛び付き、米ドルのショート・ポジションが過度に積み上がった可能性があります。したがって、米ドルのショート・ポジションを積み増すのは、少し待った方が良いだろうと考えています。ユーロ/ドルのクロスレートで見た場合、例えば1米ドル=1.12ユーロ以下に達した場合に、米ドルのショート・ポジションを積み増すことを検討したいと考えています。

欧州市場も、先週一週間は海外動向を受けた動きとなりました。とは言いながらも、欧州市場の日々の値動きは、米国市場の動きに依存しなくなっているように見受けられ、相関は低下しているようです。具体的には、この間、米国債の利回りが低下する中でユーロ圏国債の利回りは上昇する(逆もしかり)ケースも見られ、市場間の利回り差にボラティリティが生まれています。

その他、英国では、英国債務管理局(DMO)による国債発行計画の改定で、30年債の供給が減るとされたことから、長期国債の利回りが低下しました。多くのヘッジファンドが最も脆弱な年限として30年債を狙ってショートしていたことが影響しました。

英国の政策当局者とのミーティングで、我々は引き続きイングランド銀行(英中央銀行、BoE)に対して量的引き締め(QT)における英国債売りを止め、銀行が金利スワップよりも英国債を保有することに魅力を感じられるような手段を講じるべきであると提言しました。これは英国債利回り低下の追い風となり、マクロ経済面での逆風に直面する労働党政権に対するプレッシャーも和らげるとみているためです。

日本では、関税引き下げのための貿易取引を目指す交渉が焦点となっています。米国は、太平洋地域における日本の戦略的重要性を考慮すれば、日本との緊密な関係を維持したいであろうとみています。また、日米政府はともに円高を望んでいます。

そんな中、日本のインフレ率は一貫して2%を上回っており、日銀による金融政策の正常化が見られています。その意味で、円高・日本金利上昇を目指すいかなる合意も、このような軌道に整合的であると言えるでしょう。

日本の投資家が新年度に入って日本の債券や株式への配分を増やしていると見られる中、日本国債に関しては短期部分の利回りが上昇し、長期部分に関してはイールドカーブがフラット化すると予想しています。また、日本の30年国債は絶対利回りが2.7%を上回り、ドイツ30年国債利回りに近い水準になっており、アウトライトで割安な水準にあると考えています。

iTraxxのような社債のCDS指数は、今月初めに見られたスプレッド拡大幅の半分強を取り戻し、米国市場で比較対象となるCDX HY指数を上回るパフォーマンスを見せています。

市場が転換する中、CDSスプレッドは現物債よりも急速に回復しており、CDSと現物債のベーシスが拡大しています。ポートフォリオでは今月中旬にCDSを通じたヘッジ・ポジションの一部を解消していたことで、足元のリターンに一定程度プラスとなっていますが、当時のボラティリティ上昇を背景にすべてのヘッジ・ポジションを解消したわけではありませんでした。CDSスプレッドが縮小傾向を続けるのであれば、この先のより厳しい成長環境を踏まて、ヘッジ・ポジションを再び追加することを検討するのが次なる動きとなるかも知れません。

今後の見通し

今後を見据えると、トランプ氏が市場によって抑えられた状態が続くならば、金融市場は幾らか穏やかな期間に突入する可能性があると考えています。しかし、トランプ氏が後退を迫られるにつれ、私たちが目にするのは降伏というよりはむしろ、撤退であるかも知れません。

仮に、投資家のリスク許容度が十分に回復したとしても、トランプ氏がより軸足を再び前に進める可能性も排除出来ず、そうした観点からは、早晩再びボラティリティが高まる可能性を想定し、ポジション構築にあたっては比較的慎重な姿勢を維持し、明確な目標水準を念頭に置き、全体的にリスクを抑えておく必要があると考えています。

そんな中で、利益が71%落ち込んだテスラの事業に再び注力するために、イーロン・マスク氏が政府効率化省(DOGE)から撤退するとの報道は興味深く受け止めました。わずか数週間前、大統領執務室で息子を肩に担いでパレードした日からすれば、マスク氏の立ち位置はかなり後退した印象があります。同氏の退出によってDOGEの政策の多くは宙に浮いた状態で残され、連邦政府のコストを大幅に削減するという点において、この先米政権がどのように成功し得るのかについて、疑問を投げかけざるを得ません。

もしかしたら、マスク氏は権力の香りに酔いしれ、飛んで太陽に近づき過ぎてしまったのではないかと思ってしまうほどです。しかし、テスラに関して言えば、現在、同社がブランド・イメージを巡って直面している課題の多くが、自社のCEOによる行動に直結するものであることを踏まえれば、CEO復帰が転換点となるのかどうかについては疑問符が付きます。

その他では、この先の経済指標により一層注目していく方針です。これまでのところ、ハード・データは持ち堪えている一方、センチメント調査に関連したソフト・データの発表においてのみ悪化が見られています。しかし、米政権を発端とした経済混乱の影響がより色濃く感じられるようになるにつれ、今後数週間で、経済指標にも大きな変化が見られる可能性が高いです。

また、1-3月期のGDPが、主に金輸入の膨張による歪みによって、マイナス2%に近い水準に悪化する可能性もあり、注視しています。しかし、詳細な要因は一般市民からは見過ごされる傾向があるため、トランプ氏は今後、自らの計画を守るために懸命に働く必要があるでしょう。

非難の矛先をFRBやその他の人に振り向けたいと思うかもしれませんが、多くのメディアは即座にその要因が大統領自身にあることを指摘するであろうと考えることは妥当でしょう。その場合、経済の進展と金融市場の反応こそが、トランプ米大統領の今後の政策行動を制約し、不安定で道を踏み外しやすい大統領を実質的に服従させる力を持っているように思えます。

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