新たな週、新たな期限

Jul 13, 2025

英国政治の困難な時期

 

コメント要約

  • 雇用者数の増加や「大きくて美しい法案」の可決に支えられ、米国経済は力強さをみせています。一方で、関税による価格上昇が消費者に転嫁されるにつれて、インフレ率も上昇すると予想されます。
  • 成長見通しの上方修正や財政緩和を背景に、ドイツ国債利回りは上昇傾向となっている一方、長期債の需要は減少しています。英国では、労働党が社会保障改革に関する方針を撤回し、財政情勢への懸念が高まる中で、英国債が引き続き苦戦を強いられています
  • 日本では、需要がほとんどない中での過剰発行により長期債利回りが引き続き不安定な動きとなり、日本の債務持続性への懸念を招きました。グローバルでは、クレジット市場は縮小を続けているものの、リスクに対して得られるリターンが限られていることから、慎重な姿勢を維持することが賢明と考えています。
  • 短期的な米ドルの反発の可能性は高いものの、支配的な2つのテーマとして、イールドカーブのスティープ化と米ドルの軟化が挙げられます。リスク・リターンの観点から、イールドカーブの取引が最も魅力的なマクロの投資機会を提供していると考えています。


先週の金融市場は比較的静かな夏の取引環境となり、米国債の利回りに大きな変動は見られませんでした。7月9日のトランプ政権による関税期限が過ぎましたが、同政権は8月1日を「最終」期限として新たに設定し、それまでに貿易協定を締結する必要があると発表しました。

トランプ米大統領はこの期限を延長しないと誓っていますが、現時点において、投資家たちはホワイトハウスからの誇張的な発言を冷静に受け止めているようです。その意味で、月末を迎えた時点で、またしても期限が延長されることになったとしても驚きではありません。

先週の米雇用統計は、米国経済が引き続き堅調であることを示しました。また、「大きくて美しい法案」の可決も、2026年に掛けての成長を支える要因として見られています。しかし、この夏を見据えると、経済指標の内容がやや弱含むことを予想しています。

関税による価格上昇が消費者に転嫁されるにつれて、インフレ率も上昇すると予想されます。ただし、現時点ではまだこれが発生していない可能性があり、今週発表される米消費者物価指数(CPI)は概ね穏やかな水準に留まる可能性があるでしょう。このような状況下において、今後数週間では、トランプ米政権が米連邦準備制度理事会(FRB)に利下げを求める声がさらに強まると予想されます。

このことは、米短期債利回りを支える要因となるかもしれません。また、次期FRB議長がトランプ氏の求める利下げを実行する「従順な人物」であることを基準として選ばれるとの観測も、米2年国債利回りを支える要因となり得ます。一方で、このようなシナリオは長期債にとっては懸念材料となる可能性があります。

ただし、米財務省が「短期債中心(Bill and Chill; 短期債でのんびり)」の発行政策を採用し、債務水準が上昇する中で発行が短期債に寄せられていくことが明らかであるため、長期債の発行は減少するとみられます。

ユーロ圏では、成長見通しの上方修正を背景に、ドイツ国債利回りが上昇傾向となっています。市場では、EU全体で計画されている財政緩和の規模を見極めようとする動きが続いています。財政拡張政策は、金融緩和の必要性を軽減するだけでなく、今後数年間で債券発行を大幅に増加させることにつながります。

しかし同時に、足元では長期債の需要が減少し続けています。今後予定されているオランダの年金改革がこの背景として挙げられており、長期債需要のかなりの部分を担ってきた市場の一部が、今後正味ベースで売り手に転じるという点が注目を集めています。

このような状況であれば、たとえドイツの財政状況が米国と比べてはるかに健全な状態が続いたとしても、米国で予想しているのと同様に、EUでもイールドカーブの長期ゾーンがスティープ化すると予想しています。

英国では、労働党が最近、社会保障改革に関する方針を撤回したことなどから、英国債が引き続き苦戦を強いられています。皮肉なことに、先週英下院でリーブス財務相が涙を見せながら反論した際の金融市場のネガティブな反応が、彼女が少なくとも一時的には職に留まるきっかけとなったようです。

しかし、リーブス氏(もしくは後任者)が秋の予算で収支を均衡させる必要があることが明らかになるにつれ、所得税や付加価値税(VAT)、公的年金の「トリプルロック」制度(年金支給額を物価上昇率、賃金上昇率、2.5%のうち最も高いものに合わせて増加させる制度)、などこれまでの約束の全てが、議論の対象となる可能性があるでしょう。

一方、英国の社会保障危機が深刻化していることを象徴する事例として、今年の英国の新車登録台数の約25%が、国が資金を拠出しているモビリティ・スキームによるものになる見通しであることが挙げられます。この制度はかつて、重度の障害を持つ人々に車両を提供するためのものでしたが、最近では軽度の怪我や病気でも(便秘やテニス肘などでも!)利用出来るようになったようです。

その結果、モータビリティ社(このスキームの運営会社)は英社債市場で最大の発行体となっており、英国の債務統計には表れないにも拘わらず、同国の簿外にある偶発的な負債の代表となっています。このような状況を踏まえれば、モータビリティ社から支援されているNGOの一部が、労働党の社会保障改革案に反対するよう、労働党議員を説得してきた最も声高な団体であることは、驚くべきことではありません。

日本では、長期債利回りが引き続き不安定な動きを見せています。国内投資家からの需要がほとんどない中で、財務省が長期債を過剰に発行し続けているためです。

この状況は時間とともに改善されると予想しますが、日本の政策当局は、長期債利回りの水準に無頓着な姿勢を見せることで、日本が債務持続性に問題を抱えているとの広範な懸念を招く可能性があることを慎重に受け止めるべきでしょう。

そのような懸念を招くことは大きな失策となり得ますが、過去のイールドカーブ・コントロール(YCC)の熟練した運用を踏まえれば、日本の当局にとってはこれは難しい問題ではないように思います。最終的には、30年債に需要がないのであれば、政策当局は長期債の発行を全面的に廃止することを検討すべきであると言えるでしょう。

為替市場では、米ドルが比較的狭いレンジ内で推移しています。一方、ブラジル・レアルについては、先週米国からの50%関税の脅威を背景に下落しました。米国は、米国に対して「敵対的」と判断される政策をBRICS諸国が採用した場合、これらの国に追加関税を課す可能性を示唆しています。

そんな中、社債市場ではスプレッドがじわじわと縮小を続けています。リセッション・リスクが後退し、潜在的なリスク・イベントが見過ごされる中、季節的にも投資家が夏場にキャリーを取ろうとする時期に差し掛かっています。市場の需給面は引き続き力強く、この流れに逆らうことは難しいようです。

しかし、マクロ環境が突然悪化した場合であっても得られるリターンが限られていることから、全体的な市場のベータ・リスクを積み増すことに対しては慎重な姿勢を維持しています。

先週は、米イールドカーブの短期ゾーンのエクスポージャーを追加し、その見合いとしてユーロのイールドカーブの長期におけるショート・ポジションを追加しました。

 

今後の見通し

この先、米CPI指標の発表が終われば、7月後半は比較的静かなものになると予想しています。米国の減税・歳出法案が終了し、次回のFOMC(7月30日)や米国の関税期限(8月1日)に焦点が移る中、新たに大きなショックがない限り、夏の市場状況がしばらく続く可能性があるとみています。

ここ最近面談をしたグローバル投資家や資産配分の責任者の間では、何らかの強い確信を示している人は少ないように感じられます。ただしその中でも、支配的な2つのテーマとして、イールドカーブのスティープ化と米ドルの軟化が挙げられます。市場コンセンサスに沿ったポジションを取ることには慎重ではあるものの、中期的に見ればいずれの取引も正当化されると考えています。多くの側面から、この2つのポジションは比較的強く結びついています。

ただし短期的には、反転がある場合でも、イールドカーブが大幅にフラット化するよりも、短期的な米ドルの反発の可能性の方が高いと考えています。イールドカーブの見通しは、成長とインフレが予想以上に大きく上振れる場合には、ダメージを受けると見ていますが、短期的にはそのような可能性は比較的低いと見ています。したがって、リスク・リターンの観点から、イールドカーブの取引が引き続き最も魅力的なマクロの投資機会を提供していると考えています。

英国の話題に話を戻すと、社会保障の危機を解決するために、4年後にナイジェル・ファラージ氏が選挙に勝つ必要があるとすれば、それは極めて憂うべき状況であるように思えます。その頃には、私たち全員が補助金を受け取るための登録を済ませているかもしれません……

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