行先のない道

Jun 22, 2025

価格の変動要因はそれほど多くないものの、現場では数多くのイベントが起きています。

 

コメント要約

  • 先週は、イスラエルとイランの紛争や地政学リスクの高まりなどの要因があったにも拘わらず、グローバル国債の利回りは概ねレンジ内の動きとなりました。
  • ホワイトハウスは経済的な圧力を和らげるために利下げを望んでいるものの、米連邦準備制度理事会(FRB)当面政策金利を据え置くとみています。
  • 欧州では、安定した利回りやユーロ建て資産への需要の高まりが、クレジットやCLO市場を支える要因になっています。
  • 日本では、日銀や財務省が超長期国債利回りのスプレッド修正を目指して、国債発行計画を調整しました。
  • 貿易を巡る不確実性が依然留まっており、関税の期限が近づく中で、市場のボラティリティが上昇する可能性が高まっています。

 

先週も、グローバル国債の利回りは概ねレンジ内の動きとなり、数多くのイベントや要因があったにも拘わらず、金融市場はそれらによる影響をほとんど受けていません。イスラエルとイランの紛争は2週目に突入しました。しかし、市場はその先を見据えているかのようで、紛争開始以来、原油価格は10米ドルの上昇のみに留まっています。結果として、原油価格は2025年初めとほぼ同水準に戻っただけとなっています。

投資家は、イランが数日以内に降伏するか、もしくは政権が崩壊し、いずれにせよ降伏を余儀なくされるのではないかと結論付けているかのようです。そのような文脈では、政権交代が長期的に原油価格を下げる潜在的な要因として作用する可能性もあるでしょう。反対に、イランがホルムズ海峡を封鎖し、タンカーの通過を妨げるという考えは、イランの数少ない同盟国の一つである中国に大きな影響を与えかねない点を考慮すれば、現実的ではないように思われます。

とは言いながらも、中東のリスクを完全に無視することは出来ません。米国は、フォルドゥにおけるイランの地下核施設への爆撃に限定的に参加する可能性が高いように見受けられます。しかし、米国がイスラエルの侵攻を援護するために地上部隊を投入する必要がある場合、投資家の懸念は大幅に高まる可能性があります。


米国では、そのような関与を望む声は限定的と見られ、トランプ大統領はこの問題が同氏のMAGA(MakeAmericaGreatAgain)支持者間で意見が極めて対立しやすいという点を考慮し、慎重に行動するとみられます。しかし、武力紛争は時に混乱を極め、予測不可能で、醜いものになり得ます。その場合、地政学的リスクは高止まりすることになるでしょう。さらに、米国の関心が中東に向けられている最中に、他の地域でこの状況を利用しようという者が出てくるかもしれません。

先週の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、市場を動かすような目新しい材料はほとんど得られませんでした。不確実なマクロ経済を背景に、米政策金利は現時点では据え置かれています。市場コンセンサスと同様に、米連邦準備制度理事会(FRB)は関税の影響が米国経済に全面的に現れれば、成長は幾分弱まり、インフレは幾分高まると予想しています。
とは言いながらも、現時点での政策当局者からの主なメッセージとしては、金融政策に関してフォワード・ガイダンスをそれ程出せない、あるいは予防的なスタンスを採ることが難しくなっている、ということでしょう。その意味では、経済予測やドット・チャートに対しては、以前ほど重視すべきではないと言えるでしょう。むしろ、今後入手可能な経済指標を注意深く精査することが重要となってくるでしょう。


その点で言えば、ここ数週間では需要に幾らか弱含みの兆しが見られ、シティの発表している米国経済サプライズ指数は、足元で昨年9月以来の最低値である-23に低下しています。

政策当局者との会話からは、トランプ政権がFRBによる利下げを望んでいることは明らかです。米政権内では、パウエル氏がインフレを気にかけ過ぎていることへの不満があるようです。ホワイトハウスの見解では、たとえ関税が価格を上昇させたとしてもそれは一時的なものであり、消費増税に似たようなものであると考えているようです。さらに、膨れ上がる利払い費用を考慮すると、米国の財政赤字を削減するために金利を下げる必要があるとの考えもあるようです。


また、より傾斜のある(スティープな)イールドカーブをもたらすためにも、FRBが利下げを行うことが重要であるとも見られているようです。これは、米国債需要の安定を確保するために重要となります。この観点から、銀行が国債を保有することをより魅力的にする、最近の補完的レバレッジ比率(SLR)変更は、銀行にキャリーとロールダウン戦略の実行を促すのに十分な程にイールドカーブがスティープ化した場合にのみ、銀行の需要を押し上げると見ています。


また、イールドカーブの傾斜は、現金をMMFに置くのと比較して、国債を保有することで多少はプレミアムを得られることになり、米国の個人投資家を惹き付けるためにも必要であると言えるでしょう。


米政権はまた、高い住宅ローン金利に懸念を示しており、これが住宅市場を停滞させるリスクを警戒しています。住宅ローン金利は市場の価格変動の影響を受けており、米政権は、一定の安心感をもたらすためのFRBによる利下げを望んでいます。


しかし、FOMCは、金融政策決定における政治的干渉を非常に警戒する姿勢を維持することでしょう。今後数ヶ月で失業率が4.5%に跳ね上がらない限り、金融政策は当面据え置かれる可能性が高いと考えています。市場参加者の間では、インフレ上昇が抑えられるならば、9月にFRBが利下げを行う可能性があるとの見方もあり、これが米政権の期待するところでもあるようです。

しかし、それまでには依然として多くの出来事が予想され、予断を持たずにいることが賢明とみています。とはいえ、ここから先を見据えた多くのシナリオが、いずれも米イールドカーブのスティープ化を示唆していることに対しては確信を持ち続けています。したがって、今のところは、全体的な市場の方向性を予測するよりも、イールドカーブ上の取引に対する確信の方がはるかに強くなっています。


欧州債券利回りは、過去数週間に亘って穏やかに推移しており、ドイツ10年国債利回りは過去1ヶ月間2.45%から2.55%のレンジ内で推移しています。ソブリン債のスプレッドも安定しており、6月に気温が上昇する中、今年は夏が早く訪れたようにすら感じられます。


とは言いながらも、ここ数週間では欧州債券の戦略に関する投資家からの問い合わせが増加しており、投資家が米ドルや米国資産からの多様化を図っていることがテーマとなっているようです。米ドルからの構造的な配分移動というテーマは、今後数ヶ月および四半期にわたって展開されることになるとみています。


この観点から、短期的な米ドルの反発が見られた場合には、既存の控えめな米ドルのショート・ポジションを積み増す機会を探りたいと考えています。この文脈においては、ユーロが1ユーロ=1.13米ドル以下に下落した場合や、円が米ドルに対して150円に下落した場合には、これらの通貨を購入する機会を探る方針です。


ユーロ建て資産への関心は、ユーロ圏のクレジット・スプレッドを支える要因にもなっています。投資適格社債への需要は堅調で、新規発行に対しても底堅い需要が見られています。これにより、現時点では強力な需給ダイナミクスが生まれており、これはクレジット市場の高利回り部分でも確認されています。


この点に関して言えば、現在欧州CLOのウェアハウス(つなぎ融資ファシリティー)が約150あるという情報を驚きとともに受け止めました。これは、過去数年間で通常時の80から90といった数と比べて大幅な増加です。例えば、日本の投資家がユーロ建てAAA格のCLOトランシェを保有したいと考え、米国市場への配分を一部シフトさせるのであれば、今後数ヶ月に亘ってユーロ圏のローン・スプレッドを支える要因となる可能性があるでしょう。


日本では、先週は日本国債の需給に焦点が当てられました。日銀は2026年度に掛けて債券購入を減額する計画を維持しながらも、2025年と比較して減額ペースを緩める方針を示しました。


一方、財務省は超長期国債の発行を10%程度削減する計画を発表しました。実のところ、日本の超長期国債がかなりの圧力を受けている時期にあることを踏まえ、財務省がより決定的に長期債発行を減らすことを期待していました。日本の10年/30年債利回りスプレッドが150bpsを超えている水準は過度にワイドであり、中期的にはこれが修正されるとみています。


しかし、この取引については引き続き辛抱強さが求められるかも知れず、財務省が市場への理解と柔軟性を十分に示していないとの投資家の不満が高まれば、短期的にリスクが高まる可能性があるとみています。


全体としては、広範な戦略で保有しているアクティブ・リスクの水準は概ね抑制しています。全般的に、リスク資産を多く保有することに対する投資家への見返りは十分ではないと感じており、今後ボラティリティを活用して、下落時にポジションを積み増す機会を探りたいと考えています。

 

今後の見通し

この先を見据えると、7月9日の関税延長期限が近づいています。しかし、さらなる貿易協定を固めるための進展は見られず、米政権内の高官と話したところ、米国との貿易協定を進める意欲を示した全ての国に対して、7月9日の期限が延長されるという見込みがあるようです。


とは言いながらも、製薬業界に対する品目別関税の可能性には警戒しており、7月9日が市場に影響をもたらすボラティリティなしに過ぎ去ることはないと考えています。また、EUが米国に報復関税を課すと予想しており、中国からの輸入品に対して現在課せられているEUの関税にも注目しています。


米国への投資に対する「第899条項」(いわゆる「報復税」)の導入が2027年まで延期されたことには安堵しています。しかし、米当局者との議論の中では、今後、輸入品や貯蓄に課税する方が、消費税や所得税を増税するよりも政治的に容易である可能性が高いとの意見がありました。


そのような考え方は、世界的に債務水準が上昇している中で、他の政府もいずれ同じ結論に達するかどうかという疑問を投げかけています。その場合、トランプ氏や米国は、他国が追随する可能性のある政策を先導している可能性があると言えるでしょう。


これが実現するかどうかは推測の域を出ませんが、時間とともに持続不可能になり得るようなトレンドが確認されていることも事実です。その場合、変化が必要となりますが、市場の価格動向がそのような変化をもたらすきっかけとなる可能性があるでしょう。


しかし、当面の間、そのような会話は保留されていると言って良いでしょう。市場に慢心が存在し、リスク・プレミアムが縮小され過ぎていることに幾らか懸念を抱いています。しかし、私たちを取り巻く全てのイベント・リスクにも拘わらず、少なくともしばらくは、リスク資産はいわゆる「不安の壁」を登り続けることに満足しているようです。

 

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