トランプ氏にとっての「Cold」な瞬間

Jul 22, 2025

予期せぬことを予期せよ

 

コメント要約

  • トランプ大統領はFRBの政策金利の方針に対して、ますます不満を募らせており、市場参加者の間でFRBの独立性や米イールドカーブのスティープ化などの市場への潜在的な影響への懸念が高まりました。
  • 米国のインフレ率は依然穏やかに推移しているものの、関税により上昇する可能性があります。米連邦公開市場委員会(FOMC)が直ちにに利下げを行う可能性は非常に低いと考えているものの、年末に利下げが実施される可能性があるでしょう。
  • 日本は政治の不確実性や経済指標の弱含みに直面する一方、英国は弱い成長やインフレの上昇、不安定な政治に苦しんでいます。欧州では、フランスやドイツで政治リスクが高まっています。
  • 今後を見据えると、今週は貿易交渉に注目が集まることになるでしょう。米国政府は複数の合意が間近に迫っていることを示唆していますが、比較的大きな貿易相手国との交渉は現在も停滞しています。


先週は、トランプ米大統領とパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長に関する憶測が、週を通して市場の主要な話題となりました。米国政府はここ数か月、FRBが積極的に利下げを行わないことに対して、ますます不満を募らせています。

先週、トランプ氏は、「パウエルの宮殿」とも称しているFRB本部ビル改修費用の超過に関して、疑惑があると決めつけて、パウエル議長の解任を求める草案を議員に見せました。米政府はその後、FRB議長を即座に解任する計画はないとの軌道修正を図りましたが、政府は今後数週間にわたって、さらなる圧力を加えることでパウエル議長の立場をより不安定にする可能性が高いとみられています。

一方で、トランプ氏が自身の望む利下げを実行する新しいFRB議長を任命するとの見通しが、米イールドカーブのスティープ化を促しました。市場参加者がFRBの独立性やインフレ目標に関する懸念を示す中、短期債の利回りは低下し、長期債の利回りは上昇しました。

中期的なインフレ懸念によって、米国TIPS(物価連動国債)のブレークイーブン・インフレ率は過去数週間で上昇しています。それでも、6月の消費者物価指数(CPI)は比較的穏やかな内容で、コア物価は前月比0.2%、前年同月比2.9%の上昇に留まりました。前年同期は60億米ドルのみであった米関税収入が、先月は260億米ドルを記録したにも拘わらず、輸入業者がコスト増を消費者に転嫁している証拠は、これまでのところ限定的となっています。

今後数か月で、輸入業者が利益率を回復しようとする中、インフレ率は現在の水準から約1%上昇すると予想しています。しかし、この見通しには多くの不確実性が残っています。関税率に依然として議論の余地があるのみならず、生産者が効率化を図ることが出来るか、もしくはコスト増を他市場の消費者に転嫁することで、米国消費者へのインフレ転嫁を抑制できるか、といったことが依然として不透明であるためです。

米連邦公開市場委員会(FOMC)が今月末に利下げを行う可能性は非常に低いと考えています。しかし、9月までに関税率とインフレについてもっと明確になるとの仮定に基づけば、9月にパウエル氏が25bpsの利下げを実施し、年末にはさらにもう一度利下げが実施される可能性は十分にあると考えています。

このような見方は市場の期待と概ね一致しており、金利の方向性に関しての強い確信はありません。ただし、引き続きより確信を持っているのはイールドカーブの形状に関してであり、今後数か月でさらなるスティープ化圧力が続くとみています。

今後12か月で政策金利が引き下げられると見ており、米国債の短期および中期ゾーンの支援材料になると考えています。一方で、財政問題を考慮すると、長期債見通しはより険しいものとなります。

さらに足元では、世界的にみて長期国債に対する投資家の需要が減退しているように見受けられます。30年債を保有する必要性を訴える投資家は、突然ほとんどいなくなってしまったようです。

政府の財政赤字が膨らむ中で負債比率は高まり、米欧ではこの先も国債発行が増加する見込みです。各国の当局は短期債を中心とした発行にシフトして国債の年限短期化を図り、米国ではTビルを通じた資金調達が増加すると予想されます。

しかし、発行を投資家需要に合わせるための積極的な措置が取られたとしても、ターム・プレミアムの上昇を反映して、米イールドカーブはスティープ化するとみています。また日本の例を見れば、政策が上手く行かず、投資家需要の変化への対処に失敗した場合、イールドカーブがどれほどスティープになり得るかが示されています。この点に関して言えば、日本の10年/30年債の利回り差が150bpsを超えてスティープ化した状態は、米国やユーロ圏の50-60bpsと比較して、中長期的な点で過度にスティープであると考えています。

今週末、日本では参議院選挙が予定されています。自民党と公明党の与党が過半数を失い、他政党との連立政権を余儀なくされるリスクは約65%であるとみています。この結果を受けて、石破首相はその責任を取って辞任を余儀なくされるかも知れませんが、米国との貿易交渉が重要な局面を迎えており、トランプ氏が設定した8月1日の期限が迫る中、石破氏が直ちに辞任する可能性は低いと考えています。自動車メーカー向けの関税引き下げが実現しない場合、日本のGDPに悪影響を及ぼすと見られており、実際に過去2か月間の日本の輸出データの低迷にもその兆候が表れています。

これらの懸念によって、インフレ率が上昇しているにも拘わらず、日銀は10月、またはより現実的には来年1月まで、政策金利を据え置く可能性があるとみています。このような状況は、円に対する下押し圧力となっています。一方、物価上昇を受けた消費者支援のための財政措置は、日本国債利回りを押し上げる要因となっています。

英国においても、経済問題が引き続き深刻化しています。成長が弱まる中、インフレや賃金データはさらなる懸念をもたらしています。英国の政策当局者との面談では、経済のスラックが拡大する中でインフレが低下すると見込み、イングランド銀行(英中央銀行、BoE)が引き続き利下げを強く望んでいることが示唆されました。しかし、このような見方は、過去数年間に見られてきた期待インフレの全般的な上昇を見過ごしている可能性があるとみています。

英議会の政治家たちが財政収支の均衡をどのように得るべきかを巡って迷走する中、増税や歳出削減も将来の見通しをさらに悪化させると考えています。したがって、英国債及び英ポンドに対しては構造的にネガティブな見方を維持していますが、現時点では英国においてアクティブなリスクは取っていません。

欧州では、ドイツがEU予算案を否決しましたが、今月末までには可決されると予想しています。一方、フランスでは、バイル首相が提案した祝日を2日削減する案が、予想通り、嘲笑と軽蔑とともに受け止められました。フランス国内では政治リスクが再び高まっており、ルペン氏が内閣不信任案を発動し、政権崩壊を招くことによって解散総選挙への道を開くタイミングが近づいている可能性があります。

ただし、フランス議会が夏休みであることを踏まえれば、この動きは秋頃に強まってくる可能性があります。したがって、フランスに対するショート・ポジションを取る前に、まだ時間をかけて様子を見る余地があると考えています。

為替市場では先週、米ドルが調整的な反発を見せました。過去1か月間で米ドルに対するポジションが過度に弱気に傾いていたことがその一因であったと考えています。このため、最近では米ドルのショート・ポジションを抑えてきました。この先、引き続き資産配分の変化が予想され、米ドル安につながる可能性があるとみています。加えて、ハト派なFRBが複数回利下げを実施すれば、この動きが加速する可能性があります。さらに、パウエルFRB議長がトランプ大統領によって解任された場合、より迅速な米ドル安を招く可能性があるとみています。

しかし同時に、人工知能(AI)のような重要分野における米国の競争力の強さを指摘する声も続くでしょう。また、2026年に減税と利下げがともに実施されることで、力強い経済成長の素地が形成される可能性もあります。このような点から、長期的な成長における米国例外主義の終焉を唱える声は早計である可能性があります。その場合、米ドルのショート・ポジションにおける投資機会は、各通貨ペアにおいてそのエントリー・レベルを慎重に見極める必要があると考えています。例えば、対ユーロでは1米ドル=1.15付近を目安にエントリーを検討しています。

クレジット市場は、投資家の旺盛な需要を背景とした強力な需給要因によって引き続き堅調に推移しています。投資適格(IG)指数は現在、さらなる上昇が限定的とも見られる水準にありますが、前向きな投資家のセンチメントによってさらなるスプレッド縮小が進む可能性があり、高利回り社債が相対的にアウトパフォームする可能性があるとみています。

また、保険会社による社債需要は利回りに敏感である傾向が見られており、ベースとなる国債利回りが上昇した場合、スプレッドが縮小する中でも、社債への買い支えが見込まれます。

一方で、絶対的な利回り水準が大幅に低下した場合、このような買い支えは弱まる可能性があるでしょう。これらを踏まえ、クレジット市場での方向性を持ったリスクを比較的低水準に維持することが賢明であると考えています。現時点では、セクター間や発行体間の相対価値に基づく取引に投資妙味があるとみています。

全体的なリスク・ポジションは引き続き抑えており、8月1日がリスク・イベントとなる可能性があると考えています。多くの市場参加者が発表される政策の予測を既に諦めていることも鑑みれば、同イベントが市場ボラティリティ上昇のきっかけとなる可能性があります。

今後の見通し

今後を見据えると、今週は貿易交渉に注目が集まることになるでしょう。米国政府は複数の合意が間近に迫っていることを示唆していますが、比較的大きな貿易相手国との交渉は現在も停滞しています。

トランプ政権は、自身が始めた貿易戦争で勝利を収めつつあるという感覚から、楽観的なムードに包まれています。グローバル経済が「ハブ・アンド・スポーク」モデル、つまり米国を全ての中心とした構造で運営されているとの考えが浸透しているようです。つまり、TACO(Trump Always Chickens Out)という考えが、最終的には米国ではなく、他国が交渉から「ビビって退く(Chicken Out)」ことになるという見方に置き換わりつつあるようです。このような点を踏まえ、現在の穏やかな状況に突如として疑問符が付いた場合には、8月1日の期限を挟んで市場ボラティリティが高まる可能性があるとみています。

そんな中先週は、英サッカーチームのチェルシーファンとして、同チームがFIFAクラブワールドカップでこの先4年間の王者に輝くという喜ばしい瞬間を目にしました。トランプ氏がピッチ上での祝福に参加し、楽しんでいる姿も印象的でした。チームの中心的存在であるコール(Cole)・パーマー選手が(トランプ氏から)トロフィーを受け取った瞬間は、この蒸し暑い夏の最中、一瞬の「冷たい(Cold)」満足感をもたらしました。

しかし、これは同時に「予期せぬことを予期せよ」ということを、タイミング良く思い起こさせる出来事であったと言えるかもしれません。結局のところ、わずか数か月前、チェルシーが苦しく勝ち星のない日々に苦しんでいた時点で、このような結果を想像していた人はほとんどいなかったことでしょう。

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